石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『まんがの作り方(5)』(平尾アウリ、徳間書店)感想

まんがの作り方(5) (リュウコミックス)

まんがの作り方(5) (リュウコミックス)

俗説を揶揄し、川口の残酷さを描く巻

女性漫画家同士の恋を描くライトな百合コメディ、第5巻。メインカップルの恋路は特に進展なし。百合にまつわる俗説を、ポジティブなものもネガティブなものもメタ視して揶揄する第36話と、川口の残酷さをえぐり出す第32話が印象的でした。

メタ視いろいろ

第36話は、「百合ステレオタイプの棚卸し」とでも呼ぶべき恐るべき回です。レズビアニズムに押しつけられがちな決まり文句を相対視し、皮肉を込めて笑い飛ばす回だからです。まず、ネガティブなステレオタイプは、編集者・吉永の言い放つこちら(p. 93)。

あなたは森下さんよりも歳上なのだから色々とわかっているでしょう

(引用者中略)

同性同士なんていつまでも続かないこと

この発言をいったん相対化するのが、むやみにポジティブな野村先輩のこちらの意見(p. 97、p. 101)です。

やっぱりみんなでそろって幸せになるべきですよ~

人類は皆愛し合うべきですよね…♥

一瞬説得されそうになりますが、その後野村に引きずられてキャラたちが笑顔でラインダンスを始める以下の展開(pp. 102-103)の不気味さが、今度は野村のイデオロギーをも相対化します。

同性だから…なんて
将来が不安だから…なんて
そんなの
愛の力で
すべて
解決です♥

コマのバックには唐突に大自然が描かれ、ダンスするキャラたちの足元には愛らしい子鹿や兎まで登場。このあえての新興宗教パンフレットのようなキラキラぶりは、もはや揶揄を通り越して一種の冷笑に近いかと。煎じ詰めれば「同性同士は続かない」というのも「愛の力ですべて解決」というのも等しく大嘘なのであり、この漫画は百合にありがちなこうしたアホなイデオロギーを両方とも皮肉っているのだと思います。

川口の残酷さ

元々不純な動機で森下と付き合い始めた川口の残酷さが、第32話(p. 38)でありありと描き出されています。特に、「……本当だよ」とつぶやく川口の瞳の先に森下はいないとわかってしまう最終コマのインパクトがすさまじいです。ここまで描いてしまって、今後ラブストーリーとして存続し得るのかと不安になるほど。

まとめ

皮肉さと残酷さがいつにも増してきわだっている巻でした。ここまでやっちゃって、今後の展開は大丈夫なのでしょうか。ラブストーリーとして存続し得るのか?