愛の勝利と、新たな展開
傑作麻雀百合漫画、第7巻。県予選団体戦の最後までと、4校合同合宿の序盤まで。「愛が絶望に勝つ」というテーマをさらにふくらませ、友愛や家族愛などにも焦点を当てていくところがユニーク。百合方面では鶴賀の2人が相変わらず白眉でした。
「いっしょに楽しもうよ!」
これまでの打ち方が通用せず苦しむ衣に、咲がこんなことばを投げかけています(p. 22)。
いっしょに楽しもうよ!
衣の解放にダイレクトにつながる名場面です。
この前後の視覚表現を見れば、衣にとってこの台詞がどれだけ大きな意味を持つものなのかは明白。「いっしょに楽しもうよ!」の大ゴマで第51局が終わった直後、第52局の扉絵で、衣はロリータ服で天真爛漫に笑っています。51局冒頭(単行本では目次ページにあたります)のカラー絵と、完璧な対をなす絵です。
51局冒頭の衣は衣装こそ同じロリ服ですが、バックに稲妻を背負い、悟りを開いたかのごとき無表情で、首には首輪をつけています。魔物のように強いが孤独で、実は麻雀も「打たされている」状態だった衣。自由ではなかったんです。でも、52局の扉絵では、衣はもっと人間的で、幸福そうで、何より首輪のないキャラとして描かれています。咲の台詞で自分が実は孤独ではないこと、自分と麻雀を打って楽しいと言ってくれる人がいることに気づいて、彼女は解き放たれたんです。
ものすごく話が飛ぶようですが、最近この本を読みましてね。
- 作者: 岡本茂樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/05/17
- メディア: 単行本
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この本の骨子は「人は、自分が人にされたことを、人にして返す」というもの。これ、真理だと思うんです。衣が対戦相手を絶望させる打ち方しかできなかったのも、孤独な生育歴の中でまず自分自身が絶望せざるを得なかったから。だからこそ、咲が衣を力でねじ伏せるのではなく、友愛で接することで勝利するという展開には高い説得力があると感じました。
友愛、家族愛、師弟愛
7巻では友愛以外にもさまざまな愛のかたちが登場します。百合はもちろん、衣と龍門渕の麻雀部員たちの間にみられる家族的な愛や、華菜を「かわいがってねーし!」と叫ぶ久保コーチの師弟愛などなど。これらすべてが、県予選決勝のテーマ「愛は絶望に勝つ」の一環なのでは。つまりこの漫画における「愛」とは女の子同士の愛も、友情も、家族愛も、師弟愛も含むものであるわけです。決して百合恋愛「だけ」を賛美するわけではない、この幅広さがとても好き。
桃子とゆみについて
鶴賀の百合カップル、桃子とゆみが今回も独走態勢でラブラブっぷりを見せつけています。敗戦して「消え入りたい気分だよ…」(p. 72)とつぶやくゆみに桃子が
いいっすよ
消えてもいいっすよ
今度は私が大きな声で先輩を捜し回ってみせますから!
大声で世界中練り歩くっす!
と返すシーン(pp. 73-74)など、これだけでもごはんが3杯いけるのに、この後ゆみがぽそりとつぶやく決め台詞(伏せときます)と来たら! もはや本歌と返歌で堂々の相聞歌完成状態ですよ。ふたりの表情や間の取り方、そして偶然階段の上で彼女らの会話を聞いてしまった鶴賀の他メンバーの反応から見ても、これはどう見ても恋。いやー、ごちそうさまでした。
まとめ
「愛」の定義を掘り下げて、前巻よりもさらに深くテーマを追求した巻。台詞だけに頼らず、ビジュアル表現でも衣の成長を暗示するというテクニックが秀逸でした。百合方面では桃子とゆみがぶっちぎりの蜜月状態(上では描ききれませんでしたが、合宿に向かう車の中がまた大変なことに)を見せており、楽しかったです。
- 作者: 小林立
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2010/04/24
- メディア: コミック
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