LGBTのカップルは「生産性」がないとする自民党・杉田水脈議員の寄稿で批判を浴びた月刊誌「新潮45」が、2018年10月号で杉田氏を擁護する特集を掲載。社内の複数のTwitter公式アカウントが創業者の言葉のRTなどで「批判」を試みています。
詳細は以下。
- 新潮社公式アカウントが「新潮45」批判を怒涛のリツイート 「中の人がんばって」の声援寄せられる
- 炎上商法は雑誌のためになるのか?「新潮45」をベテラン編集者が批判する理由
- 『新潮45』批判を文芸書編集部が繰り返しリツイート 新潮社は「言論統制していない」とコメント
- 「良心に背く出版は、殺されてもせぬ事」。出版各社が「新潮45」批判RTの新潮社アカウントに援護射撃
上記リンク先は全部日本語記事だし、時間がたっても消えにくいメディアのものを選んだので、詳しくはリンク先を読んでください。個人的に今回のことでひとつ気になったのは、新潮社出版文芸部の公式Twitterアカウント (@Shincho_Bungei)による以下のツイートと、それをRTするという行為をどうとらえるかということです。
良心に背く出版は、殺されてもせぬ事(佐藤義亮)
— 新潮社出版部文芸 (@Shincho_Bungei) September 19, 2018
「良心に背く出版は、殺されてもせぬ事(佐藤義亮)」とだけ、このツイートにはあります。2018年9月20日現在、このツイートは約2万6000回リツイートされているのですが、リツイートしたアカウントには新潮社内の公式アカウントも複数含まれています。BuzzFeedは、このことを以下のように好意的に報じています。
「新潮社出版部文芸」が創業者の言葉を引用したツイートを、月刊文芸誌『新潮』や「新潮文庫」「新潮文庫nex」など社内の公式アカウントが続々とリツイートしている。 新潮社内でも、連帯の輪が広がりつつあるのかもしれない。
いや。
いやいやいやいや。
この「良心に背く出版は~」というツイートをリツイートするだけで「(『新潮45』を批判する上での)連帯」になると考えるのは、あまりにもナイーブ(和製英語で言うところの『ナイーブ』ではなく、本来の意味の"naive"*1ね)だとあたしゃ思うよ。なぜならば、「何をもって良心にかなったこととするか」は人によってすさまじく違うから。賭けてもいいけど、「『LGBT』は子供を産まない*2から奴らが増えると国が亡ぶ。よって杉田発言への批判に屈しないことこそ良心的」と信じている人だって、世の中には山のようにいることでしょう。同性カップルにウエディングケーキを売らなかったケーキ屋だって、同性愛者団体が都の宿泊施設を利用することを拒絶した東京都教育委員会だって、同性愛者をビルから投げ落として処刑したISISのメンバーだって、「トランス女性は児童売買をしている」というデマを信じてトランス女性を殺害したインドの群衆だって、すべて自分の中では良心にかなった正しいことをなしているつもりだったことでしょうよ。
そんなわけで、新潮社内の各種公式Twitterアカウントが、「自分(たち)は何をもってして良心と呼ぶか」を明確に表明することなく、ただ何となく聞こえがよさそうな創業者のことばをタイムラインに流していることには、言っちゃ悪いが毛ほどの意味もないと自分は考えています。エライ人には逆らえないからこれ以上は何も言えない、ってことなら、この会社はもう既に隅々まで法廷のアイヒマン("he claimed he had always obeyed orders"*3)("and as for his conscience, he remembered perfectly well that he would have had a bad conscience only if he had not done what he had been ordered to"*4)状態なんだと解釈させてもらうわ。一連の報道を受けて最初に思ったのは「ジョン・フォックスや三島の本も出してる会社がなぜ」ということだったんだけど、かつて『カムイ伝』を出していた青林堂が今どうなっているかを考えれば、別に不思議はないとも思えますね。第二の青林堂*5になるかならないかに関して、新潮社はもはや完全に徳俵に足がかかってる状態だと思うわ。
*1:Naive | Definition of Naive by Merriam-Webster
*2:「この『LGBT』は子供を産まない」という前提からして既に間違っているのですが、なぜ間違っているのかについてはここでは論じません。『〈同性愛嫌悪(ホモフォビア)〉を知る事典 』(ルイ=ジョルジュ・タン編、明石書店)の「生殖不能」や「レトリック」の項目などで既に論じつくされていますし。
*3:Arendt, H. (2006). "Eichmann in Jerusalem"[kindle version]. Retrieved from Amazon.co.jp. p. 146.
*4:Arendt, H. (2006). "Eichmann in Jerusalem"[kindle version]. Retrieved from Amazon.co.jp. p. 25.
*5:よく考えたらヘイト本ビジネスに乗り出している大手出版社は他にも複数あるから、第二どころか下手すりゃ第五とか第六とか(もっとか?)ぐらいになるのかもしれませんが。