石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『HONEY CRUSH(1)』(椿あす、一迅社)感想

HONEY CRUSH 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

HONEY CRUSH 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

方向性が不明。ただし規範の扱い方は面白いです

女子高生「みつ」の幽霊が、霊感少女「恭子」と共に美少女「まどか」を取り合うという三角関係百合ストーリー。途中でみつと恭子のカップリングの可能性が示唆されたり、そうかと思うとまどかとみつ、あるいはまどかと恭子が付き合う可能性も示されたりと、お話はかなり行き当たりばったりな感じ。ただし、「女のコ同士でつきあうこと」にまつわる規範を少しずつ解体していく感覚はちょっとクィアで面白かったです。

方向性のぐらつきについて

「彼氏ができたまどかにみつが横恋慕」という物語構造が途中からかなり強引に改変され、ちょっと小ずるい両面待ちみたいな状態になってしまっています。どのカップリングに力点を置いて読めばいいのかがわかりづらく、読みづらいです。百合カプ成立の可能性を増やした方が盛り上げやすいという判断あってのことかもしれませんが、それならもう少し序盤から伏線を張った方がよかったのでは?

規範の解体について

ここは面白かったです。「同性とつきあうこと」に対していろんな価値観が出てきて、しかもそのどれについても「これこそ正しい」みたいなジャッジメントは行われないんですよ、この漫画。むしろ、性的指向にまつわるありがちな規範をどんどん解体していくという、どこかクィアな流れがあるような気がします。ちなみに「解体」の段取りは、こんな感じになっています。

  1. 異性愛規範の提示
    • みつ「どうして私は女に生まれてきたの? あの人と同性に生まれたばっかりに想いを打ち明けられない」(p. 8)
  2. 異性愛規範の解体
    • 恭子「私はまどかちゃんが好き」(ときっぱり告白)(p. 23)
    • みつ「同性なのになんのためらいもなく人前で告白するなんて…どうしても私が踏み出せなかった一歩をあの人はあんなにも簡単に」(p. 25)
      • ちなみにみつはこの後、紆余曲折を経てちゃんとまどかに大告白をします。
  3. 「性別」にこだわる価値観そのものの解体
    • まどか「男だからとか女だからとかって関係ないのかもしれないよ たまたま先に好きになったのが山田くんだったから 今はそれ以外のひとは恋愛対象としてみれないけど…そんな気がするよ」(pp. 124 - 125)

つまり、「同性同士なんてダメ」→「同性同士でもいいじゃん」→「そもそも性別で切り分けなくたっていいじゃん」という順番で、既存の諸規範を問い直す流れになってるんですよこの漫画。個人と個人のいろんな考え方がバランスしながら、ゆるやかに「女のコと女のコの間の欲望のあり方」を模索していくという感じで、好印象を持ちました。

まとめ

女のコ同士の恋への意味づけをゆるやかに見直していく部分は好印象。でも、肝心の話の軸がどうにもブレ気味なところが残念でした。2巻でもう少し話の方向が安定してくれるといいのですが。