石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『がーるず・すきんしっぷ』(へっぽこくん、久保書店)感想

がーるず・すきんしっぷ (ワールドコミックススペシャル)がーるず・すきんしっぷ (ワールドコミックススペシャル)
へっぽこくん

久保書店 2004-03
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百合/レズビアン漫画というより、単なる「既存の規範べったりのエロ漫画」

へっぽこくん氏の18禁エロ漫画をレビューするのはこれで3作目。『ガールズガーデン』のレビューでは「女のコが好きな女のコの感情というより、ただの女日照りの男性の感情を描いてるだけなんでは?」と述べ、『恋愛少女』のレビューでは「男性にとって都合のいい発想が安易に再生産されている」>と書いてきたわたくしですが、今回この『がーるず・すきんしっぷ』を読んで、「結局、同性間セックスを扱っていても、どこまでも既存の規範べったりな作風の作家さんなのだなあ」と確信するに至りました。いくら少女同士のエロが登場しても、そこから伝わってくるのはコテコテの異性愛規範およびマジョリティの偏見なんですもん。

もっともひっかかったところ:同性愛と性同一性障害が混同されている

具体的には「あっぷるはうす」という短編なんですが、

最近 体育の着替えの時
友達の裸に目がくぎ付けになったり
おトイレで周りの音が気になったり
寮のお風呂で心臓バクバクになって
いっつものぼせちゃうのも…
すべて性同一性障害が悪いんだから!

という主人公少女の謎の独白(pp. 125-126)で始まるこの作品では、完全に同性愛と性同一性障害がごっちゃにされています。そもそもこの主人公、フェミニンなロングヘアーにワンピース着用、主語は「私」、口調も完全に女言葉、おまけに自ら

…でも私女の子なんだけど…

と明言しており(p. 132)、アイデンティティは完全に女性なんですよ。んな性同一性障害、あってたまるか。性自認が女性でエロスの向かう方向も女性なら、それは単なる女性同性愛でしょ。

マスコミがこぞって性同一性障害を取り上げるようになってから、このように同性愛と性同一性障害を混同する人が増えているような気がします。おそらく、「女を欲望するのは男」という異性愛規範をがっつり内面化した人にとっては、性同一性障害というレッテルは便利なんでしょうね。「女を欲望する女=きっと本質は男=性同一性障害なんだ!」と短絡してしまえば、女性同士のカップルを「“男”と“女”のペア」という自分にとって理解しやすい枠に押し込むことができますから。でも、それはやっぱり間違ってるんです。「自分はあくまで女で、性愛の相手も女がいい」というセクシュアリティは現実に存在していて、それは「性同一性障害」ではなく「同性愛」なんですから。

ちなみにこの「あっぷるはうす」では、女のコとセックスをすることになった主人公が

わ…私…おっ…おっ…男の子役がいい…
わ…私…そういう病気みたいなの…

とのたまう場面(p. 133)もあったりして、そこも非常に変だと思います。同性間セックスでタチ役にまわったら即「病気」ですかい、失礼な。そもそも、FTMヘテロセクシュアルの方にもベッドでは愛撫されるほうが好きというタイプは当然あり得るでしょうに、ベッドの中のふるまいまでこうも性別だけで切り分けようとする鈍感さには呆れます。要するに、ここに見られるのは

  1. 女を好きになるのは男
  2. セックスで愛撫する側は男
  3. 女なのに女を好きになって、しかも愛撫する側に回りたがるのは「性同一性障害」という病気

というコッテコテの偏見です。頭痛いわ、もう。

次にひっかかったところ:「棒と穴」主義、あるいは男女セックスの模倣

12篇中7篇が、スティックのりだのしっぽだのペン(?)だのの棒状のものを膣に挿入するシークエンスありです。それだけならまだしも、わざわざ

ばーちゃちんこぉ

と口に出して言いながら股間に棒状のものをはさみ、それで犯す(p. 61)とか、

ネコさんにつけてもらったのだ

と魔法で生やしてもらったペニスで行為に及ぶ(p. 41)など、無邪気に男女セックスをなぞるシチュエーションが目立つんですよね。

同じ器具使用でも『千夜伝説』(きみおたまこ、フランス書院)のように「女同士で楽しむため」路線なら、レズビアン漫画として全然アリだと思うんですよ。また、なんか生えるにしても、『武林クロスロード』(深見真、小学館)のようにお互いへの愛や欲望ががっつり描かれていれば、じゅうぶん女同士のエロと解釈し得ると思います。が、『がーるず・すきんしっぷ』はそのどちらでもない感じなんです。『がーるず(略)』では女のコ同士の好き感情や欲望の描写は概して薄く、まるでコドモがソフビ人形をいじるようにして相手の体を触りながら男女セックスの模倣行為を行っているものがほとんど。そう、レズエロというよりあくまで「コドモが男女セックスの真似ごとをしている」という描き方なんですよ。そこがツボという方もいらっしゃるのでしょうが、あたしには合いませんでした。

まとめ

百合/レズビアン漫画というより、「ロリな少女同士による男女セックスごっこ」路線の、たいへん異性愛主義的な漫画だと思います。「男女セックス最高」「異性愛規範最高」「セックスとは棒と穴」と信じ込める方向けなんではないでしょうか。