石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ゆるゆり(1)』(なもり、一迅社)感想

ゆるゆり 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

ゆるゆり 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

ゆるくてアホで時々百合な日常ギャグ漫画

旧茶道部の部室を勝手に使っている「娯楽部」の4人と、そんな娯楽部に絡む生徒会の面々が繰り広げるまったり系ギャグ漫画。脳髄をもみほぐされるようなアホなゆるさがたまらん作品です。百合方面についても、萌えあり妄想あり友情あり、「なぜだかアイツが気になって気になってたまらない」というみずみずしい感情ありでたいへん美味しゅうございました。ゆるギャグ系なのに毎回きっちりオチている、という構成の妙もすばらしかった。さっくり読めてクスクス笑える、キュートな百合コメディだと思います。

アホなゆるさがたまりません

相手の虚を突いてするすると手玉に取ってしまうような、独特の笑わせ方が楽しいです。林家志弦さんのギャグ作品の魅力が「全力疾走のバカパワー」だとしたら、『ゆるゆり』のそれは「脱力系のアホパワー」だと思いました。どちらがいい、悪いという話ではなく、方向性が違うという話ですよ、念のため。あたしはどちらも好きですね。

萌えあり妄想あり友情あり

お話の始めの方では、百合方面に関しては、

  • 娯楽部の「あかり」が、漫画の萌えキャラに似た新入部員(♀)に大興奮
  • 生徒会の「千歳」が1人で「妄想モード」に突入し、他キャラの百合ん百合んな妄想を勝手に繰り広げて鼻血を出す

などの描写がメインになっています。正直、ここまで読んだ段階では、「女のコ同士の関係を脳内世界限定で描く作品なのかしら」と思わんでもなかったです。つまり、ガワだけ見て勝手にハァハァできればそれでよしとして、生身の女のコ同士の内面の触れ合いにまでは踏み込まないというスタンスの漫画なのかと。
ところが、読み進めるにつれて、これは全然そんな話ではないことがわかります。たとえば描き下ろしのBonus Track. 3(8.5話)の友情百合シークエンスのなんと甘やかなこと。それまでさんざんギャグで笑わせておいて、巻末にあれをもってくるんですもん、その落差でよけいにズキューンと来ちゃったじゃないですか。ちなみに作中には、友情の域をほんの少し踏み越えた、むず痒くも甘酸っぱいカップリングも複数あり、とても楽しく読めました。

「なぜだかアイツが気になってたまらない」状態

前段で書いた「むず痒くも甘酸っぱいカップリング」についてですが、これがもう本当に良くてねー。恋とも友情ともつかないもどかしい悶々や反発が、可愛いったらありゃしません。ツンデレ×ツンデレで火花を散らし合う「櫻子」と「向日葵」のペアが、特に良かったです。「一見仲良さそうな扉絵に隠れた仲の悪さを暴露し合う」というメタなギャグが実はさらに入れ子になっていて、「一見仲が良さそうだが実は反発し合っていて、そのくせ相手のことが気になってたまらない」という多重構造を呈しているところがすばらしく楽しかったですね。

毎回きっちりオチてます

これはもう拍手もの。ゆるめの日常コメディでありながら、毎回オチにしっかり力があるんです。よくできた4コマ漫画を読むような快感が味わえる、巧みな構成だと思います。

まとめ

あざとくもなく、無理に力むでもなく、ひたすらゆるゆると笑わせてくれる上質の百合コメディだと思います。大上段に構えた恋愛ものが読みたい方には向かないかもですが、独自のセンスで笑わせたりキュンキュンさせたりしてくれる百合ものがツボな方には超おすすめ。2巻も楽しみです!