- 作者: 袴田めら
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: コミック
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熱っぽくて色っぽくて残酷な百合短編集
女のコたちの胸にうずまく熱情を鮮やかに描く百合短編集。あまあまなだけでなく棘やひっかかりを残したストーリーが多く、面白かったです。特に表題作など、「カップル成立しさえすればすべて丸くおさまる」みたいな嘘くささがなく、もっと生身寄りのお話になっていると思います。官能表現も熱っぽくてよかったです。
表題作「この願いが叶うなら」について
女のコ3人の三角関係を描く物語。セックスも登場すれば、
なんていう衝撃的な台詞も飛び出すお話です。それでいて、「体育館の暗幕の中に2人で隠れてドキドキしながら話す」なんていう甘酸っぱいシークエンスもあったりして、しっかり青春しているところがよかった。胸に刺さる棘をご都合主義的に解決させずに、描き下ろしのエピローグ「魔法の呪文」まで大切に持ち続けていくところも面白かったです。女のコ同士の関係に変にドリーム入ってないというか、女のコが好きな女のコが萌え記号ではなくちゃんと人間扱いしてもらえているお話だと思います。私の身体を 陽ちゃんの代わりにしたらいい
その他のお話について
「雨と初恋」
片想いの成就を描く、わりとオーソドックスなラブストーリー。体温まで伝わってきそうなキスシーンの色っぽさがすばらしい。ポイントは、キスしながら頬に添えられた手。2度登場するキスシーンのどちらも、手の表情がとてもいいんですよ。
「ラブレター」
これも片想いの成就ものなんですが、起承転結の「転」の直後に思い切りよく話をぶった切って後は読者の想像にまかせる、という構成がナイス。不親切なようでいて、実は最後のコマにこれからの展開の暗示があったりするところが心憎いです。
「黒づくめの女の子」
袴田めら、ついにロリエロに挑戦か!? という展開にドキドキ。最後まで読んで納得し、何度も読み返してニヤニヤしてしまいました。ああいうロリータ少女には覚えがあります、はい。よく見ると最初のページに巧みに伏線が仕込まれてるところもいいですよね。
「うつくしいもの」
バスケ部の美人「長谷川さん」に見とれる女のコの物語。長谷川さんが主人公にする仕打ちは一見残酷ですが、読み進むにつれ、「残酷なのは誰?」という気分になってきます。美って罪作り。ちなみにこれも「転」の直後にぶった切って余韻を残すタイプのお話です。
欠点を挙げるなら
漫画の内容には不満はないのですが、帯の文句だけは興ざめでした。こんなん。
いやこれぜんぜんそういう1冊じゃないでしょう。性別だけでわかったつもりになどならず、ちゃんと女のコたちをひとりひとり違う「個」として扱っている作品集だと思います。ていうか、これ、自分が異性とうまくいかないのを「個」と「個」の問題だと気づかず、性差のせいにして思考停止する一部のバカノンケの発想じゃない?女の子同士の恋だから、微笑みの裏に隠す気持ちがわかるの。
帯の文言を書くのって編集さんだと思うんですが、なんでこんな繊細な短編集に、こんな鈍感なコピーをつけるかなあ。そこだけがすごく不満。
まとめ
心締め付けられる切ない短編集でした。キスやセックスの官能も、胸に刺さる残酷さも、皆よかった。わかりやすい結末が懇切丁寧に提示されないと納得できない方には不向きかもしれませんが、あたしはとても楽しく読みました。帯の変なフレーズに惑わされずにぜひ中身を読んでいただきたい逸品です。