石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『からだのきもち』(ナヲコ、徳間書店)感想

からだのきもち (リュウコミックス)

からだのきもち (リュウコミックス)

百合・ショタ・ロリ・近親などを優しく描く短編集

『voiceful』で少女同士の愛を鮮やかに描き出してみせたナヲコさんの過去作品集。少年×少女、少女×少女、少年×少年、先生×生徒、兄×妹などなど、さまざまな関係を性愛込みで優しく描き出していくユニークな1冊でした。百合ショタロリ近親等、一見スキャンダラスに見える設定の作品も多いのに、

ジャンル的な、いわゆる「男性向・女性向」「ゆり」とか「しょた」とか「801」とか、そういうものの方がわたしの中ではあいまいな気がしています

という「あとがき」での作者様のお言葉通り、どんな関係も「スキな人をスキなだけ」(p. 162)な人間くさいいとおしいお話として描かれています。そこがとてもよかったし、女のコ同士のお話も皆素敵でした。

百合話について

収録作計11篇のうち、女のコ同士のお話は以下の4篇。

「マイガール」
好きな女のコと体が繋がっても心が全部繋がるわけじゃない、ということにもどかしさと寂しさを覚える少女のお話。
「ひとつだけ」
女性同士のカップルのラブいちゃ話。エロ無しですが、まったりした仲良し感が素敵です。
「デュオメイト」
ピアノが縁で仲良しになった少女ふたりの物語。可愛らしい絵柄ながら、双頭バイブでのHシーンあり。単なる好奇心ではなく愛情がちゃんとあるところがいいし、読後感はほっこり爽やか。
「テンション・ナビゲーション2」
女性相手に片想い中の「さや」(♀)が、後輩の「ちひろ君」(♂)と寝ることで、人を恋うことの熱さに気づくお話。ラストの切なさが泣けます。

個人的には「テンション・ナビゲーション2」がとても印象深かったです。画面だけ見ていると男女セックスしか出てこないようにも見えるお話なのですが、これは女性から女性への欲望を肯定した、まごうかたなき百合ストーリーだと思います。

あたしの好きな人女の子だから どう間違ってあたしにはセックスなんて関係ないの
セックスで何がわかるの あたしとあのコの間に何があるってゆーの

と泣いていたさやが、ちひろにも自分にもある「好きな人に泣くほどさわりたくてたまらない」という気持ちの熱さに気づいていくあたりが、ほんとうによかったです。全然報われない(セックスはしてるけど)のに、さやの気持ちをちゃんとわかって「俺ら普通っスよ」と微笑むちひろも健気でよかった。百合話というと男女セックスはひたすら忌避されるか、あるいはポルノ的な男のいいとこ取り(『レズなんて俺の肉棒の味を知れば治るぜー』みたいな)パターンに持ち込まれるか、っていうのが多いと思うんですが、これはそのどちらでもなく、とても新鮮でした。

その他

可愛らしい絵柄ながら、ロリな人はロリに、肉感的な人は肉感的にときちんと描き分けられているところが素晴らしい。ほっぺのぷに感もナイス。

まとめ

どこにでもいる人のさまざまな愛と欲望を、エロくかつ繊細に描き出した短編集だと思います。切なかったり悲しかったり甘酸っぱかったり嬉しかったりと、どのお話も人間くさくてとてもよかった。むろん女のコ同士のお話も。すんごくおすすめです。