石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

『スリーピングビューティーの見た夢』(四ツ原フリコ、一迅社)感想

スリーピングビューティーの見た夢 (IDコミックス 百合姫コミックス)

スリーピングビューティーの見た夢 (IDコミックス 百合姫コミックス)

荒削りだけど面白い! 鮮烈なデビュー単行本

一迅社コミック大賞(百合姫部門)受賞作家・四ツ原フリコさんのデビューコミックス。計6本の短編が収録されています。新人さんらしい荒削り感はあるんですが、そこもかえって魅力と感じられてしまうくらい面白かったです。一言で言ってしまうと、これは「破調」の面白さ。どの作品にも萌えとかピュアとかいう百合の定番(と思われがちなもの)からちょっとずつはみ出している部分があって、そこが斬新なんですよ。

よかった点いろいろ

上で書いた「定番からちょっとずつはみ出している」というのは、たとえば表題作冒頭で椅子を振り上げる「司」の姿なんかがそうです。女子校(……ですよね?)の生徒会というよくある設定にそぐわないバイオレンス(っぽく見える図)に、まず目をひかれました。その後も、お相手「あきら」のすっとぼけた性格、キスシーンであえて「肝心のシーン」(p. 18)を外す画面構成、意表を突くオチなど、どれをとってもいわゆる女子校百合話のテンプレから少しずつズレた作品だと思うんです。このズレ具合が、すごく楽しいんですよ。

「六畳半、周回遅れ」で、29歳引きこもりニート女性(彼女あり)を主人公に持ってくるという試みもユニーク。これまで学生百合やOL百合、おばあちゃん百合までは存在すれど、29歳ヒキニート百合という新境地に挑戦してみせたのはこの作者さんが初めてなのでは。この作品のオチで「問題が何も解決され」ない(あとがきより)ところもかえっていいとあたしは思いました。裏表紙カバー下のおまけ4コマを見ればわかるとおり、これは強烈な「あばたもえくぼ」系ラブストーリーであって、そこがもっとも肝心なわけですから。

その他、「魔女の掌」での恋の魔力のとらえ方や、「20、21」の片想い少女「朝顔」のつらさの描き方なども面白かったです。そのへんの百合作品にありがちな、「(オトナが妄想するところの)少女性」だの「社会の偏見」だのを持ち出してはい終わり、というパターンでは全然ないところがステキ。女のコ同士の関係を遠くから漠然と美化したり卑下したりするのではなく、もう少し身近なものとして語っていく感じがいいんです。

その他

  • 絵柄のクセは多少好き嫌いが分かれるところかも。特に顔の描き方など。
  • これは作品というより単行本の構成の問題なんですが、お話とお話の切れ目がわかりづらかったです。具体例を挙げると、「スリーピングビューティーの見た夢」と「白紙」の境目、そして「六畳半、周回遅れ」と「魔女の掌」の境目がわからず、1〜2ページ読み進めてからようやく「あれ、別の話になってる?」と気づくありさまでした。カットだけのページをはさむか、せめてもう少し早めに次の話のタイトルを表示するかしてくれたらよかったのに。

まとめ

リリカルなラブストーリーの中にきちんと独自の味わいが仕込んであるという、とても楽しい百合短編集でした。初単行本でこのクオリティはすごい。2冊目3冊目を早く出してください一迅社さん。あと、せっかくの作品の良さが削られないよう、作品と作品の境目をもう少しわかりやすくしてください一迅社さん。