石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ナイフエッジガール』(古街キッカ、一迅社)感想

ナイフエッジガール (IDコミックス 百合姫コミックス)

ナイフエッジガール (IDコミックス 百合姫コミックス)

さらりと乾いた百合ラブストーリー集

表題作の他、「graffiti」「トゥルトフロマージュ」「no title」の3編が収録された百合作品集。どのお話も、ラブいのにさらりとした雰囲気があるところがよかったです。じめついた自意識ばかりがねちっこく描かれがちな百合ジャンルで、この爽やかさは貴重かと。

特にいいなと思ったのは、主人公たちに、自ら動いて心をつなげていくだけの積極性があるところ。ヘタレな受験生も眠たい高校生も平凡なOLも、悩みや逡巡こそあれ、結局自分から行動して恋をつかみとっているんです。百合というとどうしても、肥大した自意識を持て余して「告白なんかしたら『私が』嫌われちゃう」「『私が』傷ついちゃう」と立ちすくむ主人公像が多くなりがちですが、この本は全然違う感じ。キャラたちの柔らかな心のふるえももちろん押さえつつ、それだけに終わらないフットワークの軽さがあって、たいへん楽しく読みました。

キャラクタでは、「ナイフエッジガール」の亜衣がイチオシ。ちっちゃくてとんがってて、でも誠実で、吸引力あるキャラ造形だと思います。場面の印象度では、なんといっても「no title」のラストシーンでしょうか。絵だけでドカンと伝わってくるあのメッセージは、この本に収録されたすべての作品に共通するものがあると思います。

まとめ

さっぱりした風合いがユニークな百合短編集。お話そのもののラブさもよかったです。自意識過剰なウジウジ少女が横行する百合ものに食傷気味のアナタにおすすめ。