石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

百合アンソロジー『つぼみ VOL.6』(芳文社)感想

つぼみ VOL.6 (まんがタイムKRコミックス GLシリーズ)

つぼみ VOL.6 (まんがタイムKRコミックス GLシリーズ)

今回もハイクオリティです

いやあ堪能した! 楽しかった! いいアンソロだー。

『つぼみ』が素晴らしいのは、「女同士だからこうだ」「百合だからこうだ」みたいな視野狭窄がなく、多様なキャラを自由自在に動かしてくれること。今回もその特色が色濃く出ていたと思います。少女から大人までバラエティ豊かなキャラ勢がいいし、ロボットやオートバイのような一見(あくまで一見)百合ジャンルに似合わなそうなアイテムがカジュアルに登場してくるところも楽しかったです。少女同士のリリカルなラブストーリーもしっかりおさえる一方で、ドキリとさせられるようなエロティシズム(ポルノの文脈ではなしに)あり、大人同士の継続的な関係を描く物語もありで、実に美味しい1冊だと思いました。ただし1箇所だけひっかかる部分がないでもないのですが、それについては後述。

今回良かった作品など

「タンデムLOVER #2」(カサハラテツロー)

VOL.5に続く、まさかのロボ百合第2弾。前半にあえて「学校図書館での淡い片想い」というクラシカルな学校百合路線を持ってくるところが心憎いですね。眼鏡っ娘ふたりの造形も古き良き少女小説の味わいで、前話とはまた違った趣がナイスです。それでいて憧れの人が読んでいた本が『タンデマイン電装系組換理論』(注:タンデマインとは2人乗り戦闘ロボのことです)で、クライマックスでは1ページまるごと使ってあの構図(伏せときます)がばーんと登場するというコントラストのつけ方がたまりません。VOL.5で既に「ロボ愛には百合がよく似合う」と確信したわたくしでしたが、今回のこの作品で、「ロボ愛にはクラシック百合もよく似合う」と悟らせていただきました。次号でまた「ロボット×百合漫画」な作品が見られたら嬉しいです。

「星川銀座四丁目」(玄鉄絢)

教師とローティーン生徒の、年の差カップル物語。ついに乙女が中学生になり、それを機に、「今日だけ特別」な展開が。ようやくここまで来たか! と、ドキドキしつつもほのぼのしました。とってつけたようにそうなるのではなくて、観月に軽くふたりの中を引っかき回させてからこの展開に持って行くという構成がまずよかったです。あと、この「特別」なシークエンスでのふたりの言動って、別に女同士じゃなくても、そして年の差カップルじゃなくても、ラブラブなカップルならすごくありそうなことだと思うんです。その普通っぽさが、かえってよかった。

「しまいずむ(その10 キャベツのせんぎり)」(吉富昭仁)

姉妹百合コメディ第10話。「そば粉100%」や「妖艶な人」などの脱力系のギャグもさることながら、「舞と桜」という意外なカップリングが浮上しているところが面白かったです。ダメな姉同士の実はラブい関係も、いつも通りナイス。あと、毎度のことながら少女の肢体の描き方が達者な作家さんですね−。前述の「妖艶な人」の場面など、ものすごく間抜けで笑える(そして『妖艶』とは百万光年ぐらい離れている)のに、同時に奇妙な色っぽさがあって、よかったです。

「つぼみがはじまるよ」(かずといずみ)

一見何の変哲もないほのぼの絵に見えて、実は「相手の股間にはまりこんでドーナツ食うの図」であるという不思議な構図が楽しいです。ふたりの制服が違うところにも、いろいろ妄想をかきたてられますね。ページをめくった先の、ラブくて可愛らしい雰囲気もよかったです。

「ロンサム・エコー(上編)」(きぎたつみ)

新人音楽教師と謎の女子生徒のお話。キャラの表情がいいなあ! 特に、バイオリンの場面とか。ミステリアスな伏線が下編でどう回収されるのか、楽しみです。

「エンドレスルーム」(藤が丘ユミチ)

ホテルウーマンと、日焼けしたお客様「滝沢様」の物語。主人公が滝沢さんの真っ白なうなじ(と、そこから続く肩)に惹きつけられる場面のエロティシズムがたまりません。これですよこれ。女同士のエロスというと即貝合わせだの69だの双頭ディルドだのばっかり連想するのは、結局「性器への機械的刺激」にしか興味のない人のすること。せっかくの女性同士の官能をそんな狭っ苦しい枠組みに閉じ込めておくなんて、もったいなさすぎるってのよ。

「ダーリン・ダーリン」(縞野やえ)

大人同士の同居♀♀カップルの物語。告白して両思いになった「その先」を描く作品です。ただの恋愛ものだけでなく、こういうパートナーシップものの作品もしっかり入っているのが「つぼみ」のいいところですね。メインカップルふたりの会話にリアル感があり、楽しく読みました。

1箇所だけひっかかったところ

「ひみつのレシピ」(森永みるく)のこのくだり(p. 299)がちょっとだけ気になりました。

部長のことが好きだと思う。
(引用者中略)
だけど、この先どうしていいかわかんない。
だって、男のコ達が相手の時は私はただ、笑ってればよかったから。
わかんないよ どうしたら恋になるの?

えー、好きならそれだけで恋じゃんか、とあたしは思うのですが。女同士だとそれじゃ駄目なの? 社会がせっせとお膳立てしてくれて、それによって相手の方が「笑ってる→オレ、好かれてるかも」と勝手に気づいていそいそとリードしてくれなきゃ「恋」にならないの? なんかそのへんが理解不能です。20本近い収録作品の中で、この作品のこのキャラだけが妙に「女同士であること」を特別視している感じで、そこがあたしには合いませんでした。特別視、というより、「ヘテヘテ社会で楽して恋愛してきた女が、それ以外の恋愛パターンを思いつかずに右往左往」と言った方がより正確かもしれませんが。

まとめ

100点満点で99点はつけたいできばえだと思います。マイナスの1点分は、上記「わかんないよ どうしたら恋になるの?」の部分があたしには意味不明だからで、この台詞に「そうそう」と共感できる人ならば、また違った評価になるでしょう。ともかくこのVOL.6がすばらしいアンソロであることは間違いないし、読んでいる間じゅうニヤニヤデレデレドキドキしっぱなしだったことをここに申し添えておきます。上で紹介しきれなかった作品にも、「ここがよかった、ここが好き」っていうのはいっぱいありますよ。芳文社はすごいなあ。