エビスさんとホテイさん (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)
- 作者: きづきあきら,サトウナンキ
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2010/08/11
- メディア: コミック
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可愛くてズキズキくるOL百合ストーリー
エリートOLエビスさんと、その同僚・ホテイさんの織りなすOL百合ストーリー。可愛くて、なおかつズキズキするお話で、とても面白かったです。いかにも女同士らしい嫉妬心やら嫌がらせやらを正面から描いてみせたところが特に新鮮。「女同士であること」にこの方向から切り込んだ百合作品って、他に類を見ないと思います。前半のホテイさんの心のかき乱され具合といい、急転直下なクライマックスといい、リアリティばつぐんで楽しかったです。描き下ろしの後日譚「マヨちゃんとホテイちゃん」も甘さと毒の配合がすばらしく、ニヤニヤしながら読みました。
エビスさんのチクチクズキズキ具合について
序盤のホテイさんのドロドロっぷりにまずびっくり。有能すぎるエビスさんへの嫉妬のあまり、周囲に嘘はつくわ靴は隠すわ書類に飲み物ぶちまけるわと、通りいっぺんの嫌がらせは全部やってるんですよこの人。
それでもどうしてもこのキャラを嫌いになれないのは、この人のこうした行動が、結局はエビスさんに強烈に惹かれてしまったことによるものだから。好きなのに自分の感情をどうしていいかわからず、まるで初めて恋を知った小学生のように混乱してしまっているから。このあたりの台詞に顕著です。
好き? これが?
もしもエビマヨが
年上だったり異性だったら
憧れとか
なにか違う感情だったのかもしれないだけど
同い年の 同性なんて
相手が輝いていればいるほど
嫉妬や
あせりや
劣等感が
グチャグチャになって
ワケがわかんなくなっちゃう
「女同士であること」にこの方向から切り込んで見せた百合作品って、あたしはこれまで見た事がありません。ファンタジーじみたピュアさ・美しさが要求されがちな百合ジャンルで、女同士のドロドロした対抗心・嫉妬心をここまで押し出してみせるというたくらみにまず脱帽。また、こうしたなまなましい感情が、かえってホテイさんのかわいさ・いじらしさを浮き彫りにしているところもよかった。表情がすごくいいんですよ、ホテイさん。エビスさんの無自覚な女ったらしぶりがまた強烈なもんだから、ひたすらそれに振り回されるホテイさんの姿がかわいそうで、かわいいんです。陰湿OLのえっぐいお話かと思わせておいて、実は微笑ましい初恋物語という、この落差がよかった。
急転直下の後半について
ホテイさんが恋心を自覚する場面と、超不器用なプロポーズ(と言っちゃっていいと思うんですあれは)に打って出る場面に涙。あの小さくうずくまった背中や、訥々とした口説き文句(と言っちゃっていいとry)のいじらしさ、痛々しさに打たれました。実はエビスさんの側にも屈折があり、2人の気持ちがかっちりと噛み合って行くところもよかったです。
描き下ろし番外編「マヨちゃんとホテイちゃん」について
エビスさんの姪っ子・ハナちゃん視点の後日譚です。本編のエンディングは寸止め気味でしたが、こちらではエビスさんとホテイさんがおそらく身体の関係もある恋人同士となっていることがはっきりと見てとれます。エビスさんとホテイさんの親密でちょっと淫靡な雰囲気や、自分の家庭についてクラスメイトに話すハナちゃんの言葉を選びつつもどこか誇らしげなところなど、リアル感たっぷりでした。『オハナホロホロ』(鳥野しの、祥伝社)や『sweet guilty love bites』(天野しゅにんた、一迅社)などもそうですが、こうして「子供のいる同性カップル家庭」がごくあたりまえに描かれる時代になってきたんだなあと思います。
ママが3人(ハナちゃんの実母も含めて)いる生活について、ハナちゃんの級友から「そんなのヘンだよ!!」と突っ込まれる場面がきちんと設けてあるところもよかったです。その後で意外なオチに着地していくところも好き。たった6ページなのに、甘さもあれば少々棘もある、楽しい百合話になっていると思います。
まとめ
前半のチクチクズキズキ具合と、後半でドカンと来るカタルシスとの取り合わせが非常に面白い作品です。俗に言う「女同士の陰湿さ」も登場するのに、実は小学生みたいに不器用でいたいけな初恋ストーリーだという意外性がすばらしかった。番外編も含めて、オチのラブさも特筆ものです。おすすめ。