石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『初めて恋をした。』(あさぎ龍、富士美出版)感想

初めて恋をした。 (富士美コミックス)初めて恋をした。 (富士美コミックス)

富士美出版 2009-07-25
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『少女聖域』よりこちらの方がいいかも

18禁エロ漫画です。全3話の表題作と短編「夕霧はるか」が百合もので、他に4編の男女エロ作品が収録されています。絵にやや描き慣れなさは感じられますが、百合ものとしては昨日レビューした『少女聖域』より評価できるかも。というのは、性表現こそ男性が好みそうな局所描写に偏っているものの、『少女聖域』ほど露骨ではないし、キャラ同士の心の機微にもよりウエイトが置かれているからです。難点はストーリーやキャラ立てが弱いこと。女性同士の関係が「終わらない夢」「箱庭」など表現されているところも、個人的には今ひとつ。

「初めて恋をした。」(全3話)について

女子中学生と大学院生のラブストーリーです。キャラたちの恋愛にともなう嫉妬や幸福感などが丁寧に描かれていると思います。夏っぽい雰囲気もよかったです。ちなみにセックス描写は貝合わせ中心で、いかにも男性向けの描き方ではありますが、『少女聖域』ほどどぎつい局部アップ連発はありません。身体の密着感が大事に描かれている上、足の指を舐める場面などもあり、商業エロ漫画という枠の中でよく健闘されているかと。

ただしストーリーラインは非常に弱く、キャラ立ても今ひとつです。まず、周囲に関係がバレることを恐れるメインカプが、なぜか人前でせっせとキスしたり手をつないだりしているところが理解できません。これでは2人とも単なる頭の弱い人にしか見えず、感情移入しづらかったです。クライマックスもあまりにもご都合主義的で、読んでいて脱力してしまいました。結局これは起承転結ならぬ「起、承、転と見せかけてまた承、結」というお話であって、ドラマとしての盛り上がりには期待しない方が良いかと。

「夕霧はるか」について

女子校教師と生徒とのお話。エロについては「初めて恋をした。」と同様、局所刺激偏重型です。それでいてエグさが比較的少ないところも同じ。ストーリーの起伏はほとんどなく、ほぼメインキャラ2人がセックスしながら話をするだけという内容になっています。

ちょっとひっかかるのは、この作品では女のコ同士の関係が、ひいては女子校という場が「終わらない夢」「箱庭」などと形容されているところ。こういうところにうっとりできる人もいるのでしょうが、あたしはちょっと無理でした。女のコ同士の関係を「女子校」という箱庭に閉じ込めて陶酔するのって、結局は単なる異性愛主義の裏返しだと思いますし。

その他

「初めて恋をした。」も「夕霧はるか」も、それぞれ年の差カップルを扱っていながら、「お姉さま」ものではなく「お姉さん」ものであるところが面白かったです。ここはちょっと新しいなと。

まとめ

「あくまでオカズとして貝合わせ主体の女女エロを見たいが、汁まみれのタワシのよーなもののアップばかりが強調されても困る」「多少はリリカルで百合百合しい要素も欲しい」という方に向いている1冊だと思います。「むしろタワシ歓迎」という方であれば、『少女聖域』の方がおすすめ。対象層が非常にはっきりしている作品であると言えましょう。