石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

PCゲーム『ホリゾーンの上〜預言の書〜』レビュー

ホリゾーンの上 ~預言の書~ホリゾーンの上 ~預言の書~

Hecate 2009-05-01
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百合ゲとしてもエロゲとしても誉めようがない怪作

一言で言うならば、「中学生の黒歴史みたいなシナリオにへっぽこ絵とへっぽこエロをつけただけの作品」。キャラ造形も絵もストーリーも、おまけにエロ部分もいいとこなしという、どこをとっても誉めようがない怪作でした。あえて言うなら女性同士の関係に男性が割り込んでこないところだけは好印象ですが、それ以外では良かった点はほとんど思い当たりません。メインシナリオにして百合ルートであるエクレールルートからして大変しょぼかったので、百合ゲーとしてもおすすめしません。

キャラ造形について

主人公シュクレの鈍感さが既に人間の域を超えているところにげんなり。ほとんど『アオイシロ』の小山内梢子を思わせる鈍感さ、と形容すれば、わかる人にはわかるかも。

いや、ラブストーリーには恋をなかなか成就させないための仕掛けが必要だということはわかるんですよ。でも、どのルートでもその仕掛けが「シュクレの鈍感さ」1点に頼り切りっていうのはどうなの。結果として、シュクレは「ターゲットキャラの好き好きアピールをわざとらしいまでに徹底スルー。それなのに終盤でなぜか手のひらを返して『ラブラブ』とかなんとか言い出す」というわけのわからない人になってしまっています。非常に共感しにくいキャラであることは間違いないかと。

ちなみに恋愛以外でも、感情面でのリアリティに欠ける作品だったと思います。たとえば、

  • 「楽しくてたまらない」とニコニコ笑っていた直後に、突然「そんな幸運が続くわけはないよぉ」と言い出し、号泣し始める
  • ケルヌンノスの前で服を脱ぐことすら恥ずかしがっていたはずなのに、その直後、全裸で「ケルヌンノスぅ、あたし今、な〜んにも着てないんだよ〜。帽子のせいで見えなくて残念でしょ〜。チラッと見せてあげようっか」と当のケルヌンノスを挑発し始める
  • 親友(ルートによっては想い人)のはずのエクレールが行方不明になったことを、丸3日ぐらい完璧に忘れ去っている

等々、あまりにもシュクレの心の動きに無理がある場面が多すぎるんですよ。シュクレのこの宇宙人っぷりは、やはり小山内梢子並みかと。

絵について

立ち絵に立体感のないところはまだいいんですが、キャラが複雑骨折しているとしか思えないイベント絵の数々には目を疑いました。シュクレがベッドで枕を抱えてうつぶせに寝てこちらを見上げている絵とか、首の角度どうなってんですかアレ。あと、女のコ同士の非エロないちゃいちゃシーンのCGがすべて「後ろからそっと抱きしめる」図だというワンパターンぶりにも絶句。

ストーリーについて

これが一番ひどかった……! 

  • テキストどころかストーリーまで全ルート使い回し
    • 2週目からは8割方スキップで飛ばせます。
  • 最後までエロくもラブくもないルートが乱立
  • なんでもかんでも台詞で説明
    • 途中から説明台詞をひねり出すことすら面倒になったのか、「設定資料を読み上げているだけ」チックな地の文満載。
  • 設定が壮大すぎて消化し切れていない
    • 「天界・魔界・人間界」の3つの世界の話のはずが、唐突に「冥界」とかまで出てきちゃって理解不能。
  • 「ドタバタADV」(メーカーサイトより)のはずなのに、ギャグがほとんど空回り
    • 「ホームラン」とか、ほとんど80年代のギャグセンスなのでは?

という、目を覆うばかりの出来具合でございました。特に「なんでもかんでも台詞で説明」「設定資料を読み上げているだけ」なところが壮絶。「中学生がノートの片隅に書き殴って、10年後に発見して『うわあああああ』となる黒歴史小説みたい」と言えばそのひどさが伝わるでしょうか。たとえばグラースがシュクレの魔力に気づくところや叡智の場でのレベルアップ場面など、言葉よりもエピソードを使って見せていった方が盛り上がるだろうに、いっこうにそういう展開にならないんですよね。ひたすらキャラがべらべら喋ってるだけで。

エロについて

努力の方向が激しく間違っていると思います。どうでもいい場面でキャラに無理矢理ぱんつが見えるポーズを取らせて「ほらほら、こういうのが見たいんでしょ」とアピールする暇があったら、肝心のHシーンにもっと力を入れろと。そもそもHシーンの数の少なさと尺の短さ、CGの少なさをなんとかしろと。

あと、セックスの理由がすべて愛でも相手への欲情でもなく「特殊なフェロモンで発情したから」というご都合主義的なものであるところもいただけませんでした。『オトメクライシス』か、これは。

百合部分について

主人公が女のコと性愛ありの関係になるのは、エクレールルートとエスターテルート、あとフィオールルート(の、バッドエンドコース)の3つなんですが、どれもしょぼいこと極まりなしです。というのは、前述のシュクレの鈍感さが災いして恋のプロセスがひとつも盛り上がらない上に、レズビアン・セックスが「悪いこと」としてしか描かれないんですよどのルートでも。シュクレにベタ惚れしているはずのエクレールでさえ、フェロモン効果でシュクレとセックスした後、

「えーと……うん、このことは忘れましょ。全部、夢だったことにして。ねっ、お願い、シュクレちゃん」

と、まるで恥ずべきものであるかのようにふるまっています。また、エスターテルートでも行為の後、

一時の高揚感みたいなものが消え、理性が戻った時、あたしたちはすご〜く気まずかった

なんて地の文があったりします。つまり、この作品では女性同士のセックスは徹頭徹尾「よくないこと」「後ろ暗いこと」としてしか表現されないわけです。まるで男性が自慰の後に抱く罪悪感とやらをレズビアン・セックスに投影するがごとき描き方であり、要するに女性同士の性愛はセックスではなく相互オナニー扱いなんだな、と思いました。そんなにレズビアン・セックスをスティグマ視しているのなら、最初から百合エロゲなんて作らなければいいのに。『恋夏〜れんげ〜』か、これは。

その他

今どきディスクレス起動できないとか、シーン回想モードがないとか、日付が変わるといちいちスキップが止まるとか、システム面でも使い勝手が今ひとつでした。あと、あからさまな処女信仰も不気味でした。

まとめ

国語ができない中学生の習作みたいなシナリオにデッサン狂いの絵を添え、『アオイシロ』と『オトメクライシス』と『夏恋〜れんげ〜』の悪いところを足して足しっぱなしにしたような作品だと思います。これを定価9240円で売ろうと考えたHecateの発想がある意味すごい。レズビアン関係に男性が割り込んで来ないこと、直接的に同性愛を貶める言い回しが出てこないことだけは評価したいと思いますが、それ以外には特に賞賛すべき点が見あたらないゲームでした。