石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『鏡の中のわたし』(おがわ甘藍、松文館)感想

鏡の中のわたし (別冊エースファイブコミックス)鏡の中のわたし (別冊エースファイブコミックス)

松文館 2009-07-28
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表題作他1編が百合エンド。ただし陵辱や男女エロも多め

18禁エロ漫画。表題作「鏡の中のわたし(全6話)」と、読み切り作品「ドキドキ♥留守番大作戦」が百合エンドです。ただし、どちらの作品でも男女エロがたっぷり描かれる上に、女性キャラ同士の気持ちの描写は概して少なめ。また、「鏡の中の〜」には男性から女性への陵辱シーンも盛り込まれています。とは言え、どちらの作品も「ヘテロセックスを一定量描かなければならないという前提のもと、力技で百合エロ&百合エンドを忍び込ませた」と解釈することは可能です。もしこの解釈が当たっているならば、その努力には最大限の拍手を送りたいです。

「鏡の中のわたし(全6話)」について

幼なじみの「くるみ」を想う「蕗子」の中には淫らで残忍な別人格「藍子」がいて、この藍子が蕗子の身体を乗っ取っていろいろやらかすという物語。

起承転結の「転」の部分のサスペンスと、佐原の大祭のしっとりした日本情緒がよかったです。ただし、百合/レズビアン物として見るならば、蕗子とくるみのラブラブHシーンが全6話中わずか2ページというところが物足りません。その少し前に「男性によるくるみ陵辱シーン」が10ページ以上使ってねっとり描かれるところを思うと、この落差がちょっと悲しいです。ちなみに藍子とくるみの交わりは数多く登場しますが、こちらは恋情のともなわないいわゆる「レズプレイ」的な行為であって、どうも百合百合しさに欠けるんですよ。また、蕗子が第1話冒頭と最終話以外ではほとんど意識消失しており、くるみとの心の交流がなかなか生まれないところも今ひとつ。

女のコ同士の甘エロより男女エロや「レズプレイ」に比重が置かれてしまうというのは、ひょっとしたらエロ漫画という媒体ゆえのことかもしれません。「百合は受けない」「男を出せ」という声がわりとよく聞かれる業界ですしね。これが小説ともなるとだいぶ事情が違うようで、作家の森奈津子さんは2008年に『姫百合たちの放課後』文庫版のあとがきで、

昔は、百合物を書きたいと申し出ても、編集者に「読者が理解できないから」「読者が引いてしまうから」と言われて、滅多に書かせてもらえませんでした。
(引用者中略)
しかし、時代は変わったものでございます。今では、「百合物を書きたい」と言えば、出版社からあっさりOKが出るようになったのですから。
私にとっては、うれしい世の中となりました。が、偏見バリバリの世間と戦わずして作品を発表できるというのは、ちょっと拍子抜けといった感もございます。
きっと、ドラゴンを倒して姫君をゲットした勇者も、こんな気分で惚けているにちがいありません。
「もう、オレは本当に、ドラゴンと戦わなくていいの? ほんっとうにっ? もし、よろしければ、もっと戦いますけど……」

と書かれているほどですが、エロ漫画界にはまだこのドラゴンが闊歩しているのかもと思ってしまいました。

「ドキドキ♥留守番大作戦」について

主人公の女子校生「奈緒」が、隣家の娘「芙祐」とその友達(少年)ふたりを相手に4Pを繰り広げるというお話。4Pが終わったところで物語の幕を閉じてもよさそうなものなのに、敢えてその後に奈緒と芙祐とのお風呂セックス場面がつけてあるところがポイント。さらにそこで奈緒が芙祐に男性とのセックスを禁じ、イカせまくってから「かわいい妹ができました――」とつぶやいているところもポイント。結局この作品の4P部分は、前述の「ドラゴン」対策なのかも。

その他

『秘密の女子寮』『あねいもぉと』、そして『鏡の中のわたし』と3冊通して読んでみた結果、この作家さんの最大の魅力は

  • 情緒あふれる日本の田舎風景
  • ロリータ少女の可愛らしさ(百合含む)

の2点に集約されるのでは、と感じました。面白いのは、本作のカバー絵でまさしく上記2点が表現されていることです。表紙こそロリでもなければ田舎の風景でもないのですが、裏表紙にはなつかしい日本の下町風景が、そしてカバー見返しにはレスリングをするロリータ少女ふたりの絡み絵が配されています。ちなみにレスリング絵の少女のひとりは本作に収録されている「グローリー・ブリッジ」の主人公で、この漫画自体は完全なヘテロ物だったりします。これはつまり、作品の中には登場させられなかった百合エロをこちらに描いてみた、ということなんでしょうか。そんなところも興味深かったです。

まとめ

百合エンドの作品こそありますが、分量的には百合な部分がそれ以外の部分のオマケ的な存在になっているところが今ひとつ。また、女のコ同士の恋愛感情がなかなか盛り上がらないところも今ひとつ。いっそ「オカズたれ」という縛りのない一般誌で最初から最後までロリ百合なお話を描いてくださったらすごいものが出てきそうな作家さんなんですが、そういう発注は行かないんでしょうかね。絵柄も可愛いし、『つぼみ』や『百合姫』あたりで受けそうなんだけどなあ。