石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『猫神やおよろず(1〜3)』(FLIPFLOPs、秋田書店)感想

猫神やおよろず(1) (チャンピオンREDコミックス)

猫神やおよろず(1) (チャンピオンREDコミックス)

猫神やおよろず(2) (チャンピオンREDコミックス)

猫神やおよろず(2) (チャンピオンREDコミックス)

猫神やおよろず(3) (チャンピオンREDコミックス)

猫神やおよろず(3) (チャンピオンREDコミックス)

猫神が主人公の和風コメディ(百合あり)

古物と記憶の守護をつかさどる猫神「繭」を主人公とする和風コメディ。さっくり読めて後味も良い、とても楽しい漫画でした。美少女キャラてんこもりなのに少しもあざとくなく、むしろ「耳袋」のような日本古来の奇譚・怪異譚の味わいがあるところがよかったです。百合な部分に関しては、繭をめぐる三角関係に注目。百合メインの漫画ではないとは言え、繭を想う「笹鳴」(ささな)と「メイ子」のいじらしいひたむきさがいいんですよ。笑いも涙も冴え渡った、すばらしい作品だと思います。

「耳袋」っぽい面白さ

これが顕著なのは、2巻収録の「お花見ゴーストバスターズ」の回。あらすじは「ネコ耳・キツネ耳ありの主人公一行が、なぜか野球拳で女幽霊と決戦(ポロリもあるよ)」というもの。このあらすじだけを見るとまるで流行の萌え漫画ですが、この作品はそれだけには終わらないんです。幽霊を呼び出すための古式ゆかしき作法や漢字ギャグなどの和風テイストがまず面白いし、何よりすごいのが、ラスト2ページの鮮やかさ。最小限の説明でスパッと怪異譚にオチをつけるという、まるで「耳袋」のような幕の引き方に思わず唸らされました。今風のキュートさもたっぷりなのに、あざといどころかむしろ伝統をきっちり押さえた奇事異聞集だと思います。

百合な三角関係について

猫神の笹鳴(♀)は、親同士が決めた繭の許嫁で、繭にべた惚れ。その一方で、大黒天の孫であるメイ子(♀)も繭に恋をしているしているという設定です。許嫁設定そのものは「親がたがいの娘の性別を取り違えていた」というもので、そこだけ見たときは「単にヘテロ主人公が『女が相手なんて嫌』と騒ぐだけの話なんだろうか」と思わなかったと言えば嘘になります。ところが蓋を開けてみたら、全然違ってました。繭の、

笹鳴は儂の許嫁(つれあい)じゃ! 目の前で傷つくのを黙って見ている訳にはいかん!

なんてキメ台詞(1巻p. 55)あり(またこれを聞いているときの笹鳴とメイ子の表情が絶品)、3巻での笹鳴とメイ子のけなげな奮闘ありで、見てて全然飽きません。百合メインの漫画ではないとは言え、この3人の関係はとても面白かったです。

笑いと涙について

笑いに関しては、1巻冒頭で主人公が寝そべってゲームをしつつ呟く台詞が

なあ柚子よ 儂はいつまでスパルタンXをやり続けなければならんのかのぉ

だというところ(p. 5)で既にハートをわしづかみにされてしまいました。ここに限らず、軽やかなギャグの連打がとても気持ちいい作品です。涙については2巻収録の「レイニーレイニー」にとどめをさします。猫飼いにあれ読ませるのは反則だよもう。

まとめ

ネコ耳もあれば水着もポロリもありのお話なのにまったくあざとくなく、むしろ日本古来の「奇譚・怪異譚」の面白さをたっぷりと味わわせてくれる作品だと思います。笑いも涙も百合な部分も、とても楽しく読みました。おすすめです。