石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ねこもころ(全2巻)』(乙佳佐明、ソフトバンククリエイティブ)感想

ねこもころ 1巻 Flex Comix

ねこもころ 1巻 Flex Comix

ねこもころ2 (Flex Comix)

ねこもころ2 (Flex Comix)

力強いテーマを持つソフト百合ファンタジー

「猫天然」(猫型の獣人)のモコロが憧れのお姉さまララッカを追いかけて奮闘する話。ただのフワフワしたお姉さま物ではなく、根底に「普通と違うのは悪いことか?」というテーマが力強く脈打っているところがユニークです。百合漫画としてはマイルドな方ですが、モコロがララッカに対して抱く妄想ギャグや、モコロの友人ピリカがモコロに寄せる友情など、見どころはたくさん。唯一の欠点は、お話が中途半端なところで終わってしまっていることですが、これはひょっとしたら打ち切りだったのでしょうか?

繰り返される「普通と違うのは悪いことか?」というテーマ

モコロの故郷の「猫天然」たちは皆、「直立二足歩行する、もふもふの大きな猫」といった姿をしています。人型の体に猫耳猫しっぽのモコロは異形のものとして疎まれて育ち、モコロ自身も自分が普通と違うことにコンプレックスを抱いています。

ところがモコロがララッカを追って訪れた学園球カムイで、モコロの価値観は大きく変化していくんです。ここがこの作品のもっとも感動的なところでした。特に、サクリやマチカチとの出会いのエピソードがすばらしかったです。「自分はみんなと違う」と悩むモコロにマチカチが投げかけたこの台詞なんて、目ウロコ。

カギしっぽ! ワタシのシンボル!
皆と違う とても珍しい 自慢!

(引用者中略)

違う所があればあるほど 他の者に出来ないことが出来るチャンスだ 首長が言っていた
故郷ではワタシだけが大きく授かった ワタシだけがカギしっぽだった
何もかも皆と違い特別だった
凄いことだと皆喜んでた
特別な存在になれると学園球に送り出してくれた

「違う所があればあるほど 他の者に出来ないことが出来るチャンスだ」というくだり、今後座右の銘にしたいほど好きです。あらゆるマイノリティを力づけるメッセージだと思います。

百合漫画としての見どころ

モコロの妄想ギャグ

ララッカ「そう モコロちゃん
がんばったわね…新期生なのに偉いわ…
そんなモコロちゃんにはご褒美としてこんなことしてあげる…♥」

モコロ「あっ ら ららっかさまっ…」

何事かと思われそうですが、これはモコロの妄想です。こういったララッカ様がらみのモコロの妄想は繰り返し型のギャグとして何度も登場するのですが、回を増すごとにじわじわとおかしみが増して行ってナイス。

ピリカの友情

ツンデレ娘ピリカがモコロに寄せる友情がいいんですよ。ツンデレなのにモコロのことでは思わず泣いたり笑ったり落ち込んだりと、ピリカは実に愛らしい表情を見せてくれていて、そこがたまらんです。

残念だったところ

いよいよこれからというところでお話が終わってしまっているのが残念。回収されていない伏線もいくつかありますし、本来はもっと長いストーリーだったのではないでしょうか。2巻後半でのララッカとモコロのハグのシーンなんてすごくぐっとくるだけに、ふたりのその後が描かれないというのはとても残念です。

まとめ

ただの百合萌え作品とは一線を画すだけのテーマがあるし、それでいてソフト百合としてもじゅうぶん楽しめるしで、とても面白かったです。かえすがえすも2巻で突然終わってしまうのがもったいない漫画だと思います。いつかどこかでこの続きを読みたいものです。