石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

百合アンソロジー『つぼみ VOL.4』(芳文社)感想

つぼみ VOL.4 (まんがタイムKRコミックス GLシリーズ)

つぼみ VOL.4 (まんがタイムKRコミックス GLシリーズ)

再びパワー急上昇。でもちょっと学園ものの比率が増えたかも

vol.3で少しだけパワーダウンしたかにも見えた「つぼみ」でしたが、このvol.4で完全復活。良いお話がぎっちりで、表紙やイラストもすばらしかったです。ただ、以前より学園ものの比率が増えているところがちょっと気になります。結局中高生ものが一番ウケやすいってことなのかしら、とも思うんですが、作品世界の幅の広さが「つぼみ」の最大の魅力なので、せめて今ぐらいの比率で踏ん張ってくれたら嬉しいです。

良い作品がぎっしりでした

いやー今回は豊作! 以下、特に良かったものの感想など。

「しまいずむ」(吉富昭仁)

いつも通りバカさとエロティシズムと秘めた恋心が絶妙にブレンドされた逸品なのですが、だんだん恋心の比重が高くなってきているところにニヤニヤさせられました。しかも、それでいておバカ度がいっこうに落ちないところが最高なんですよ。

ちなみに今回は「その6 ぺろぺろさせて」「その7 もみもみさせて」の2本立て。何事かと思ってしまうサブタイトルですが、本当に文字通り前者が「芳子が遥の足を舐める話」、後者が「芳子が遥の胸を揉む話」です。しかもそれらの行為そのものはギャグでごまかされていず、しっかりとエロティック。体の接触とともにふたりともようやく自分の気持ちに気づき始め……たもののそこでしっかりギャグ展開が入る、というナイスな寸止め具合に笑いました。行為に突入する前の会話のすっとぼけ具合もいつも通り楽しかったです。たとえば、

遥の肌ってホントにキレイ
クラゲの表面みたい

とかね。いいかげんに海棲生物から離れろおまえら(vol.3の魚類ネタ参照)。あと、その7のオチも最高でした。まさか、ああ来るとは。

「星川銀座四丁目」(玄鉄絢)

「小学校教諭と小学生」という年の差カップルのお話。年齢差が年齢差なだけにずっと微百合路線でいくのかと思いきや、今回はずいぶんと色っぽいことになっています。つながる手とか上気した頬とか、そして何よりあの唇のいやらしさにノックアウトされました。さらに、とある展開の後で、先生に

そんなことない! 乙女と××××××!」

と叫ばせる(ネタバレ防止のため一部伏字)ところが巧いなあと。「乙女とキスしたい」じゃないところがポイント。その後2ページのふたりの可愛らしさも特筆ものですし、オチへの流れもスムーズでよかったです。

「エビスさんとホテイさん」(きづきあきら+サトウナンキ)

最後のページに「これよ! これなのよ!」と思いました。これまでのエピソードの積み重ねは、ホテイさん側の「好き」という気持ちが立体感を持ってくっきりと立ち現れてくるこのページのためにあったんだと思います。「とにかく百合なんだから適当に好き好き言わせてキャッキャさせとけ」みたいな不誠実な漫画とは違う重厚な構成に感動。あと、好きな気持ちをみょーに美化せずに、欲望とかよこしまさとかズルさとかもきっちり描いていくところがよかったです。キス絡みの展開にもドキドキさせられました。

「ミチ」(吉田美紀子)

可愛い絵柄でテーマは鋭いという短編。バイセクシュアルの恋人を持ったレズビアンの不安をユニークな切り口で描いていて、とても面白かったです。バイセクシュアルを悪者にしないフェアな描き方がまずいいし、ミチの言う「修行」のバカさといじらしさも好き。

表紙・裏表紙(鳴子ハナハル)

上品な官能があふれていて、しばし見入ってしまいました。あけすけなエロ絵よりこういうのの方がよほどえっちだと思います。ていうか表紙のふたり、もう本の内容なんざ頭に入ってないよねこれは。鳴子ハナハル氏はあとがきで「いつか漫画も描いてみたいです」とおっしゃっていますが、ぜひ! 描いていただきたいものです。

カラーイラスト・「つぼみがはじまるよ」(蒼木うめ)

ほっこりしたカラーイラストから、今にもキス(?)しそうなモノクロ絵へという流れが楽しいです。モノクロ絵の方は、キスしようとしているようにも見えるし、おでこをくっつけて体温を計っているようにも見えるしで、読者の心を一瞬「え? え?」とかき乱す面白さがあるところもよかった。どちらが正解だとしても、キャラクタふたりの頬の赤らみが示すドキドキ感、そして手や髪や体などの表情がどこまでも百合な雰囲気をかもし出していて、しみじみと見とれました。

でもなんか学園ものが増えている?

これまでの3冊に比べ、学園ものの比率が高くなっているような気がします。とりあえず「メインカップルが共に中高生で、主に学校内でドラマが展開する」という漫画を拾ってみると、

  • 「恋のさんかく」(小川ひだり)
  • 「ガールズトーク」(コダマナオコ)
  • 「ガールズライド」(磯本つよし)
  • 「私の嫌いなあなた」(かずといずみ)
  • 「ひみつのレシピ」(森永みるく)

の5本。これに、お話のメイン部分が高校時代のエピソードである「思い出箱」(久遠あき)も加えるなら計6本。これまでの「つぼみ」よりちょっと多めだと思うんですよ、この本数は。

小学生から大人まで、さまざまな年齢と立場のキャラクタの百合を描いてくれるのが「つぼみ」の最大の魅力だと思うので、この傾向にはいささか疑問を覚えないでもないです。結局中高生同士のお話を求める人が読者層に多いということなのかもしれませんが、なんとか今ぐらいの比率で踏みとどまってくれたら嬉しいと思います。

まとめ

今回はvol.3に見られた大味さは陰をひそめ、良質な作品がたっぷりでした。ただ、以前に比べ中高生メインのお話が増えているところだけは気にならないでもないです。せめて今ぐらいの構成で、他誌よりバラエティ豊かな百合アンソロとして続いてくれたらいいなと思います。