COMICリリィ v.2 (RICE RIVER COMICS)
- 作者: アンソロジー
- 出版社/メーカー: ライスリバー
- 発売日: 2009/12
- メディア: コミック
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vol.1より面白いけど、やっぱ物足りない
「恥かしい!」(内村かなめ)と「その瞳に映る人」(楽時たらひ)がよかったです。
逆に言うと、それ以外はどうもなあ。全体的にvol.1よりはハンコ絵比率が減ったような気はするんですが、それでも相変わらず画面上は人物ばかり(つまり、背景の力が弱い)だったり、どこかで見たようなストーリー/エピソードばかりだったりというパターンが多いような気が。ほとんど全話が中高生ものという点も含めて、無難さを狙いすぎて袋小路に陥っているような印象を受けます。
読んでいて思い出したのが、糸井重里さんが約20年も前に書かれたこの言葉。
大学の文化祭で、屋台と同じ焼ソバが焼けたとき、学生は「おお、おれたちもプロのまねができた」と大よろこびするわけです。さらにいうと、学生がつくった「海の家」とか「○×コンテスト」で、プロがふつうにやっていることをそっくりにできたとき、万歳をして大成功を祝います。「めくるめく官能の世界に貴女を誘う」という言葉がすらすらっと書けたとき、自称コピーライターは自分で「おお」と感心するのです。このパターンが身につくと、一層これを書きたくなるという傾向があります。書いていて気持ちがいいのです。
(糸井重里. (1989). 『85点の言葉(知的で口べたなあなたに)』. ネスコ. p. 39.)
コスミック出版の百合アンソロ「百合少女」あたりにも言えることですが、この「comicリリィ」も、上の文章でいうところの「大学の文化祭の焼ソバ」のにおいがすると思います。つまり、「おお、おれたちも既存の百合イメージのまねができた」というところで終わってしまってる感があるんですよ。「おれは! 絶対に! このケチャップ焼ソバで天下を取るぜええええ!!」とか、「私は! 焼ソバには絶対に黒海苔も合うと思うんですー!!」みたいなほとばしる情熱はそこには感じられず、ただ無難。その無難さこそがツボだという読者層はいるのでしょうし、商売としては正しいのかもしれませんが、個人的にはあまり高く評価できない1冊でした。
よかった作品について
最後に、よかった2作品について簡単に感想など。
1. 「恥かしい!」(内村かなめ)について
キスシーンの色っぽさが白眉。単にフワフワといちゃつかせたりアクシデントでごまかしたりするのではなく、女のコから女のコへの欲望をきっちり入れ込んであるところがよかったです。石鹸踏んづけてすっ転ぶ場面の迫力も楽しかった。
2. 「その瞳に映る人」(楽時たらひ)
途中まではよくある「好きなのに素直になれない」パターン&「内面化されたホモフォビアから恋を否認」パターンで、「またこれですか」と思ってしまったのは事実。でも、それを全部ひっくり返すぐらい、起承転結の「転」のところがステキでした。あの表情は反則だー。単なる1エピソードにすぎないと思っていたことが、別の意味を持って鮮やかに立ち上がってくるという、すばらしい伏線の張り方だったと思います。