石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『キャンディ(1)』(鈴木有布子、芳文社)感想

キャンディ (1) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)

キャンディ (1) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)

五感に訴えかけるリリカルな百合

女子校でモテモテのボーイッシュ少女・可南と、1年先輩の美少女・千秋の恋愛ストーリー。五感に訴えかける描写が秀逸で、ホモフォビアの扱いもうまく、ティーンらしい恋の初々しさもあって、たいへん楽しく読みました。2巻も楽しみ。

五感に訴える描写いろいろ

言葉に頼らず、視覚や聴覚、触覚などを総動員してメインカップルの恋心を見せて行くところがよかったです。例を挙げるなら、可南に告白して走り去る千秋の、真っ赤に上気した首筋(p. 9)とか。可南が千秋との掃除中、どぎまぎしてゴミ袋を破ってしまうときのなんだか間の抜けた音(p. 17)とか。可南のうなじに何気なくくちづけた千秋の唇の、「熱くて、少しだけ濡れて」いる触感(p. 23)とか。このような感覚に訴える描写のおかげで、キャラやストーリーがより鮮やかで生き生きしたものとなっています。

タイトルにも登場するキャンディというモチーフが、甘く切ない恋のメタファーとして物語全体をつないでいるところも心憎いです。メインカップルの恋愛のみならず、脇キャラ・野々宮の実らぬであろう片想いの表象としてもキャンディが大活躍しており、うまいまとめ方だと思いました。

ホモフォビアの描き方

上記の野々宮さんが可南と千秋の関係につっかかり、こんなことを叫ぶシーン(p. 77)があるんですよ。

女の子同士でつきあうのってやっぱり変だもん!

ああ百合漫画につきもののホモフォビアっすねー、どう処理するんですかね、と身構えたところ、可南は一旦「変 かなあやっぱ……」とつぶやいたのち、まるまる1ページ使った大ゴマで、満面の笑みとともにこう返す(p. 78)のでした。

でもね あたし
その変なことで
頭いっぱいに
してたいの

おおおおおおこれは新しい! 「変なんだ」とうじうじ悩むでも、「変じゃない」と真っ向から否定するでもなく、「変でも別にいい」と別方向から切り返すこのクィアさがステキです。そうかー、この手があったかー。

ちなみにこの後、野々宮のホモフォビアはおそらく同性愛者または両性愛者である彼女自身の中に内面化されたものであることが見て取れるような展開もきちんと用意されています。つまり野々宮自身もまた異性愛規範の被害者にすぎないわけで、物語全体としては「同性愛は変なことだけど、愛があれば許されるの」みたいなへっぽこメッセージは一切ありません。そんなところもうれしかったです。

恋の初々しさ

可南と千秋の初デートのエピソード(第4話)が超キュート! 付き合い始めのデートでの微妙な食い違いと、それを乗り越えるふたりのちょっとした成長が描かれており、まさに「ティーンエイジャーあるある」な感じ。レズビアンだろうとヘテロだろうと共感しやすいお話なんじゃないかと思いました。

まとめ

感覚に訴えかける表現の数々がキャラやストーリーをくっきりさせているし、アメというモチーフで全体をつなぐというアイディアもよく、最後まで楽しんで読むことができました。ホモフォビアの描き方もフェアで、初々しい百合恋愛ものとしておすすめです。