- 出版社/メーカー: 松竹ホームビデオ
- 発売日: 2006/12/22
- メディア: DVD
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あれは恋だ、とあたしは思った
この作品、「主人公はレズビアンではないから、レズビアン映画ではない」とする向きもあるようですね。確かにそういう解釈もありでしょう。だけど、「初めて自分にやさしくしてくれたセルビーにのめりこんだだけだから、恋愛じゃない」って解釈はどうなのかなあ。初めて2人がキスするシーンを見て、あたしは、あれは恋だと思いました。それも電撃的な、破滅に向かう恋。というわけで、レビューを書くことにしたわけです。
ストーリーについて
簡単に言えばこの話は「7つの殺人で6つの死刑判決を受けた売春婦アイリーン・ウォーノス(リー)の悲劇」です。でも、連続殺人鬼の話を見ているというより、まるで、ずっと虐待されてきた犬が、それでも好きな人には尻尾を振って懸命にけなげに生きている話を見ているような切ない気持ちになりました。犬はなんにも悪くないのに、ひどい目に遭って殺されそうになって、怖くて怖くて人を噛んでさ。それでタガが外れちゃって、見境なく人に噛み付くようになっちゃってさ。それをお前は責められるのかと問われたら、あたしには「責められない」としか答えられません。
この話を見て単純に「怖い」とか「暗い」とか言える人は、幸せな環境で平和に育ってきたんだろうなと思います。シビアな環境で歯を食いしばって生きてきた/生きている人の中には多かれ少なかれああいう虐待された犬が棲みついて震えているんじゃないか、ただ程度問題で犬が暴れ出さずにいるだけじゃないかという気がしきりにします。
隙のない構成
冒頭のモノローグと2分にも満たない回想シーンだけでリーの悲惨な生育過程を鮮やかに描き出すところに、まず唸りました。その後、モノローグをかぶせつつ、話はリーが自殺を図った80年代後半に移って行くのですが、どこを見ても無駄な台詞や陳腐なダラダラしたシーンがひとつもないのが素晴らしいです。とにかく隙がないつくりなので、DVDで観たにもかかわらず、画面から一瞬も目が離せませんでした。
演技
リーの孤独と絶望と狂気を、シャーリーズ・セロンが力強く演じ切ってます。この作品におけるセロンの演技は、もはや、「美人なのに汚れ役に徹しててすごい」とか、そういうくだらないレベルではありません。表情も口調も、演じているというよりは役が天から降りてきている感じ。一種の神憑りというか、北島マヤ状態というか。画面から目が離せなかったのは、セロンの表情を見逃したくなかったということもありますね。
相手役のクリスティーナ・リッチもよかった。「どこにでもいそうなイケてないちびレヅで、ちょっとバカで、ガキで、弱い人間」というセルビーの役を、すごい存在感でこなしてました。セルビーは嫌な奴ではあるけれど、決して「レズビアン=犯罪者」とか「レズビアン=頭がおかしい」とかいうステロタイプになっていないのは、クリスティーナの演技力によるところも大きかったんじゃないかしら。
音楽
ネタバレ防止のため伏せますが、とある緊迫したシーンの音楽がおそろしく場面とマッチしていて、それはそれは怖かったです。あまりの迫力とテンションに、心臓がバクバクするほどでした。音楽とも効果音ともとれる不思議なサウンドだったんだけど、後でスペシャルディスクを見たら「この映画のサントラは、『明瞭なメロディーを作曲すると言うより全体的な音の環境をデザインするという感じ』で作った」とあって納得。確かにあの場面のテンションは、メロディーだけじゃ表現できないぜ。
その場面以外の音楽もとても良かったです。特に裁判シーンの曲なんて、もう、泣きました。脚本や演技の良さももちろんあるんだけど、音楽のパワーもすごく作用したシーンだと思います。
まとめ
とにかくよくできた映画なんで、興味がある方はぜひ見てください。あたしはよく「レズが犯罪者にされる暗い話はもううんざり」って言うんだけど、これだけの力量でかっちりと作ってくれるんならむしろ大歓迎です。とりあえず今からもう1回本編を見返して泣きます。