石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『恋の涙と愛の蜜』(いとうえい、コアマガジン)感想

恋の涙と愛の蜜 (メガストアコミックスシリーズ No. 99)恋の涙と愛の蜜 (メガストアコミックスシリーズ No. 99)
いとう えい

コアマガジン 2006-10-19
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「男はキタナイ、女はキレイ」という見事なまでのステレオタイプ百合

18禁エロ漫画。巻末に収録されている「蝶の羽」「蝶のはばたき」の2編が百合物(連作)なのですが、どこまでも「男はキタナイ、女はキレイ」というコテコテなステレオタイプに基づく作品で、あまり楽しめませんでした。逆に言えば、百合物にこうした紋切型を期待する方にとってはストライクゾーンど真ん中なのかもしれませんけれども。

このへんがステレオタイプ

まず、あらすじ↓をご覧ください。

  1. 放課後の教室で下級生とキスを交わすお姉さま。(ナレーション『――女の子はキレイ 男の子はキタナイ だからずっとこのままでいたら――キレイなままでいられると思っていたの――』)
  2. お姉さま、男に凌辱される。男「俺はセンパイに正しい道を教えようとしてるだけですよ」「知ってるんですよ先輩がここでレズプレイしてたってコト」
  3. お姉さま、男にいろいろされながら独白「男なんて絶対にイヤなのに!!」「イヤ! イヤ! 汚れるっ!」「汚れる…汚い…臭い…」
  4. 男、調子に乗って腰を振りつつ「レズなんて非生産的なのやめましょうよっ」
  5. 処女だっつーのに感じてしまうお姉さま「なんでこんなに気持ちイイの!?」
  6. 後日、下級生と別れようとするお姉さま、泣きながら「私はもう汚れたの 一緒にいたらきっとアナタも汚してしまう アナタだけはキレイなままでいてほしいの…」
  7. 下級生、お姉さまのために(ネタバレ防止のため伏せます)。「私の方がお姉さまより…ずっと汚れています」
  8. いろいろ(主にエロエロ)あるけど省略
  9. ラスト、お姉さまと下級生が手に手を取って「二人一緒なら何も怖くないわ」

なにか変なものが暴走しているとしか思えないこの展開。何が暴走しているのかというと、「ありがちなベタな偏見」、つまりステレオタイプですな。「男」の陳腐すぎる異性愛中心主義も、「お姉さま」が意味不明の男性嫌悪を抱えているところも、あまりにひねりがなさ過ぎて、あたしにはもはやギャグだとしか思えませんでした。

「男」の異性愛中心主義はまだいいんですが……

お姉さまを凌辱する男性キャラがアホみたいな異性愛中心主義を振りまわすところはまだいいと思うんですよ。彼は結局悪役なわけですしね。でも、主人公たる「お姉さま」の極端な男性嫌悪っぷりは、個人的にはいただけないものがありました。ここまで終始「男は」「男が」「男なんて」と男性のことばっかり考えずにいられないというのは、レズビアンとか百合とかいうより、むしろ非常にヘテロ的だと思うからです。

本当に女のコが好きで女のコとつきあってるんなら、ここまでオトコオトコ連呼したりしませんって。それは、ミカンが好きな人が、いちいち「リンゴなんて嫌い! リンゴなんて臭くてまずくて……」などと大騒ぎしながらミカンを食べないのと同じです。わざわざリンゴについて言及せずにいられないというのは、その人は実はリンゴのことが気になって気になって仕方がないってことです。せっかく女のコ同士の関係を見ようと思ってこの作品を読んだのに、中にあるのはお姉さまの男性に対するこだわりばかりというのはがっかりでした。

まとめ

百合物に「満たされない異性愛の代償行為」という謎の図式を求める方にとっては、この作品は当たりなのかもしれません。でも、あたしのように、「女のコ同士の、何かの代用品なんかじゃない『好き感情』が見たい」という人にはまったく向かないと思います。あと、どこかで見たような紋切り型の表現が苦手な人にも向きません。人によって相当評価が分かれる作品かも。