石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ことのはの巫女とことだまの魔女と』(藤枝雅、一迅社)感想

ことのはの巫女とことだまの魔女と (IDコミックス 百合姫コミックス)

ことのはの巫女とことだまの魔女と (IDコミックス 百合姫コミックス)

巫女と魔女とのハッピーなラブストーリー

6歳のときから結界内の隠れ神社に封じ込められて山神様を祀ってきた巫女「紬(つむぎ)」と、そんな紬と偶然出会った魔女「レティ」との恋物語。序盤の偶発的なキスと、それに対する「女同士だし深い意味はない」という趣旨の発言などから、「ひょっとして、『ヘテロ同士を適当にいちゃいちゃさせつつ、レズビアニズムは全否定』みたいなよくあるパターンの百合漫画なのかしら」と危惧したのですが、さすが藤枝雅さんの作品だけあって、その心配は無用でした。蓋を開けてみれば、レズビアニズムを否定どころか力いっぱい肯定してくれる素晴らしい作品でしたし、脇キャラにもさりげなく百合な人がいたりして面白かったです。

最初のキスと最後のキスの意味の違いに注目

レティと紬の最初のキス(第1話)は、単に紬が閉じ込められている結界を壊すためのもの。レティにしてみれば軽い気持ちでしたことで、第2話で本人も、

あああのときのアレは…その…しちゃったけど魔法のために必要で…
女どーしだし…あたしとしては深いイミは…

と語っていたりします(p35)。

これだけなら、よくあるつまらない「アクセルとブレーキを同時に踏んでる百合漫画」パターンだと思うんですよ。が、この漫画がすごいのは、ここで終わらないところ。というのは、今の台詞を受けて「女同士…では恋人にはなれないということですか?」と問う紬に、レティはこんな言葉を返している(p36)からです。

うー…なれない…ってコトはない…けど でも…そーゆー行為だけでは恋人関係とは言えないかなー うん
恋人っていうのは…「行為」よりも「好意」 お互い「好き」の気持ちがあるもの同士のことでしょ?

で、その後、ふたり一緒に困難に立ち向かううちに本当に「好き」の気持ちが高まっていき(紬の方は最初からレティに惚れてるんですけどね)、最終的にずっと紬のそばにいる決意をしたレティが紬と唇を重ねて言う台詞(p149)がこれ。

…魔法とか都合はついで あたしがそーしたいからそーしたの
紬は一緒にいたい? いたくない?

これですよこれ! 単に、「魔法のために必要」という理由でしたキスから、「魔法とか都合はついで」という宣言へのダイナミックな変化。そして、それを通してはっきりと打ち出される、「恋人関係は『行為』よりもお互いの『好き』の気持ちで決まるし、女のコ同士でもそれは可能なんだ」というメッセージ。ここがこの作品のもっとも素晴らしかったところであり、読んでいてこの上なく痛快な気分になりました。

その他あれこれ

  • レティのあまりにベタな魔女コスチュームは最初どうかと思ったのですが、後半の見せ場での大ゴマや決め台詞が格好よすぎて、「これはこれでよし!」と納得させられてしまいました。
  • ふたりのデートシーンが可愛いです。他の藤枝雅作品のキャラが複数登場しているのも見どころ。
  • 脇キャラの五十鈴が実は百合な人で、最終的には意外な相手とのカップリングが誕生するあたりも良かったです。

まとめ

女のコ同士の恋を明るく肯定してくれる、楽しい漫画でした。スカっとするハッピーエンドのラブストーリーをお探しの方に、超おすすめ。