- 作者: 森島明子
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2009/08/18
- メディア: コミック
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大人かわいい乙女たちの百合恋愛アソート
乙女な大人のガチ百合恋愛を描かせたら天下一品の森島明子さんによる短編集です。いやー、楽しかった。こんなにゼータクしちゃっていいんだろうか、と思ってしまうぐらいリッチな味わいの百合物語アソートでした。独立した短編集としても読めますし、秘めやかに『楽園の条件』や『半熟女子』とリンクしているお話もまた味わい深いです。等身大のキュートな百合話が読みたい方にすごくおすすめ。
各話の簡単な感想など
「瑠璃色の夢」
OL同士の恋物語。あるある、これはある。女性同士の恋愛って、「女子校の憧れの君」とか「お姉さま」みたいなのより、実はこういうなしくずし的な始まり方の方が多いんじゃないかと。痛かったり懐かしかったり微笑ましかったりキュンキュンしたりで、もんどり打ちながら読みました。
「星のお姫様」
女子高で王子様お姫様と呼ばれたカップルのその後を描くお話。リアリスティックで、それでいて同時にとても可愛らしいラブストーリーです。「王子と姫」という偶像をベタに奉るでもなく、かと言って無下に否定するでもなく、意外な方向からやさしい光を当てていくという切り口がステキでした。二段ベッドのはしごを登る場面がよすぎて、涙でます。
「ハニー&マスタード」
コミカルな腐れ縁ものまたはバディものでもあり、キュンとくる四角関係でもある物語。何がいいって、大人キャラ「香」の、年下女子を見ながらの、
という述懐(p. 63)。脳内共感メーターが音を立てて振り切れるかと思いました。大人な百合キャラが、単に年齢設定を高めにしただけの薄っぺらい書き割りではなく、甘い痛みもバカな若さも経験済みなひとりの「人間」として描かれているところがすごくいいなと思います。そんな過去がある大人同士だからこそ、「蜜姫」との腐れ縁もひきたつわけで、ラストシーンにはにやにやさせられてしまいました。あと、レズビアニズムを「そっちの気」などと呼んで周辺化するのではなく、当事者視点できっぱり「こっち側」と称しているところもよかった。なつかしい
甘くて未熟な恋の始まりだ
「追憶〜ノスタルジー」
9歳年上の未亡人とつきあい始めた「京」の物語。「すこしさびしくてとても幸せな」時の流れのとらえ方に、ぐっと来ました。「ハニー&マスタード」を読んだときも思ったんですが、この「時」の扱い方というのは森島作品のポイントのひとつかもしれません。どのお話にも空間軸だけでなく時間軸がきちんと存在し、子供キャラは子供なりに、大人キャラは大人なりに積み上げてきた「時間」をちゃんと持っている気がします。だからこそキャラたちにこんなにも人間くさい魅力があるのではないかと。
「20乙女の季節〜Virsin [sic] Season〜」「満月の夜には」
『楽園の条件』に収録された、「20娘×30乙女(ハタチムスメとミソジオトメ)」の後日譚。端的に言うと、笑美と圭子先生が初Hにこぎつけるまでの物語です。年の差ネタが輝きまくりで、笑美と圭子のどちらの気持ちもわかりすぎて悶え転がるという嬉し苦しい気分をたっぷりと味わえました。ふたりの共通点たる乙女なところも可愛かった! ※蛇足ながら、"Virsin"はたぶん"Virgin"の誤植だと思うのですが、目次も表紙もこの表記だったので、[sic](原文ママ、の意)をつけてそのまま引用しておきます。
「半熟腐女子」
『半熟女子』のちとせの姉にして大学生腐女子な「千絵」の、コミカルなラブストーリー。女子高生メイドにモエモエしているうちにひょんなことからフラグが立ってトゥルーエンドへ、という意外な流れが面白すぎます。もともと、リアル感たっぷりなのに女のコへの萌えを忘れないというのが森島テイストの真髄だと思うのですが、この作品ではまさに萌えと恋との両方が「別腹」でぎゅぎゅっと詰め込まれており、楽しく読みました。
まとめ
どの短編も良くて良くて、前菜からデザートまですべて美味しいフルコースを堪能したかのような満足感が味わえる1冊です。リアルなのに可愛くて、モエモエなのに人間くさくて、女のコそのものやレズビアニズムへの愛に満ちあふれた作品集だと思います。税込みたったの900円でこんなに美味しいもの味わっちゃっていいのか、いやもうこれは1食抜いても読むべき本だ、とにぎりこぶし作って考えたりしました。以前からの森島ファンにも、初めて読む人にも、等しくおすすめです。