- 作者: いけだたかし
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2008/04/23
- メディア: コミック
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純夏の恋に進展が!
女子高生同士のラブストーリー第2巻。ずっと1巻の切ない片想い路線を貫くのかと思いきや、なんと純夏の恋に微妙に進展が! とは言え、そこで単純なラブラブファイヤー両想い状態に持っていったりしないところがこの漫画の心憎いところ。純夏と汐のもどかしい「告白未満」状態に、新キャラの百合好き少女「蒼井あずさ」の片想いを絡めることで、全体的にとても甘酸っぱいストーリーとなっています。また、周囲の「レズ」に対する偏見や、百合ヲタによくある妙な思い込みなどがきちんと描かれているところも面白かったです。
もどかしくも甘酸っぱい恋模様について
1巻では主に純夏の側の切なさが描かれていましたが、この巻では汐の側の甘酸っぱいエピソード(しかも、対純夏の)が続出。純夏がそれに全然気づいていないところがもどかしくて、たまりません。1巻ではウルトラマンのお面に泣かされましたが、2巻では携帯電話にハラハラさせられましたよ。
また、新キャラ蒼井あずさの苦しい片想いも見どころです。特に、好きな人(伏せます)に指で涙を拭われるシークエンス(pp76-77)が最高。メインカップルの恋がやや進展する一方で、このように報われない恋を抱えているキャラクタもやっぱりいるわけで、そのへんがお話に深みを出していてとてもいいです。
偏見やバッシングの描写について
非常に面白いのが、この2巻では百合ヲタにありがちな偏見や、「レズ」へのバッシングがしっかりお話に登場するところ。さらに、それらの価値観を肯定するでもなく、かと言ってヒステリックに全否定するでもなく、ゆるやかに包み込む形でお話が進んでいくこと。
たとえば百合好き同人少女の蒼井は、登場直後に
と、ありがちな偏見を披露しています(pp38-39)。また、純夏の教室ではクラスメイトたちが蓮賀と当麻の関係を取り沙汰してお姉様(引用者注:百合小説作家の『織野真紗香』のこと)のファンならわかるでしょ? 蓮賀さん達みたいにあからさまなのは何か違うって
女の子同士の愛情ってさ もっと秘めた所にあって 純粋ではかなくて だからこそ美しいものだと思うの
おかしくない? 女同士で! ヘンタイじゃない? キモくない?
と大騒ぎ(pp32-33)です。つーかキモいし! 引くし!
けれども蒼井はその後女のコ相手の苦しい恋に落ちてしまい、人の恋を吞気に「何か違う」などと評していられない立場になってしまいます。また、クラスでの「レズ」に対する暴言も、当の蓮賀の台詞と予想外の行動によって、なんとはなしに無力化されてしまいます。ちなみにこの蓮賀というレズビアンキャラは「ヘンタイで/キモくて何が悪い?」というクィアネスを感じさせる人で、実を言うと蒼井の価値観の変化を示すシークエンスでも非常に重要な役割を果たしているんですよ。
異性愛中心社会が女のコ同士の関係に投げかけるいろいろな偏見を「なかったこと」にするのではなく、きちんと描いてから相対化していくという描き方がフェアだし、そこでクィアなキャラクタが大活躍しているところが楽しいなあと思いました。同性愛という議論の元になりがちなテーマを扱いつつ、決してひとつの正義を押しつけようとしないこのゆるやかな感覚が、とても好きです。
まとめ
ひたすら切ない1巻に対し、切なさはそのままに甘酸っぱさを増したお話だと思います。いじらしくも可愛らしい恋の数々だけでなく、さまざまな価値観をゆるやかに包み込んでいくクィア度の高さも楽しいです。いいもん読ませてもらいました。