- 作者: 大朋めがね
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2010/12/11
- メディア: コミック
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どこか視線がオッサン臭い……というか部外者臭くて没入できず
女子高生や女性教師たちのちょっと切ない女女恋愛を描く短編集。やわらかい雰囲気といい、可愛らしい絵柄といい、好きな人が多そうな作品だとは思うんですよ。でも、あたしには合いませんでした。同性愛に向けるまなざしがところどころオッサン臭いというか、部外者臭いような印象を受けたからです。登場人物の顔の見分けがつきにくいところも残念。一部のリアル感や、性描写の上品さは好きなんですけどね。
このへんが合いませんでした。
あたしがひっかかったのは、まず、この台詞(p. 88)です。
女の子同士の恋愛って特にアブノーマルでしょ?
まるでレズビアンポルノに興奮するノンケ男性か、「人と違う自分」を演出するためにレズビアンぶる中学生みたいな言いぐさだ、と思いました。「特に」って何よ「特に」って。そもそも同性愛は「アブノーマル」でさえないはずなんですよ現代の精神医学では。さらに、こういう台詞を口にするのが同性愛を蔑視するキャラクタならともかく、同性の恋人ともう8年もつきあっている女性キャラだという点が余計にひっかかりました。ここまで時代錯誤で、同じ同性愛者を背中から撃つようなことを嬉しげにのたまうキャラに、共感しろって方が無理だわ。
他にはこのへん(p. 139)も気になりました。
私にそのケがあると見るやいなやあっという間に私を恋人にしては――
「そのケ」ねえ。「そのケ」とか「そっちのケ」とかいう言い回しって、「同性愛は婉曲的にしか口に出してはいけないことである」というメッセージを暗に含んでいると思うんですよ。また、こうした表現に「その」とか「そっちの」とかいうソ系列の指示語が使われるのは、同性愛は話者から、または「一般人」から距離がある物事であると示唆するためだと思います。つまりは、「そのケ」というのは、「周縁に位置づけられ、口に出すのがはばかられるものとしての同性愛」をほのめかす言い方だと思うんです。このへんは、あたしがくだくだしく説明するより、toppoiさんのこちらのエントリをご覧になっていただいた方が早いかもしれませんね。
そんなわけで、わざわざ百合キャラにこんな表現を使わせるという点が、あたしにはピンと来ませんでした。このあたりのニュアンスに鈍感な子という設定なのだと言われれば、それまでですけど。
キャラの見分けがつきません
顔かたちのみならず、メガネの形までみなほぼ同じというのはキツいものがありました。ひとつの話の中でならまだヘアスタイル等で見分けられるのですが、複数のお話を読んでいると、「え、これってさっきの話のあの人? いや違うの? あれ?」の連続で、ひたすらキャラの名前の確認作業に追われるはめになり、つらかったです。めくるめく相貌失認の世界へようこそ、みたいな。
とはいえ
いいところもたくさんあるとは思うんですよ。全体の基調をなす、やさしくふわりとした雰囲気とか。少女たちのキスやセックスや自慰を描きつつ、決してどぎつくならないところとか。「女のコに手を出しておきながらちゃっかり男と結婚し、そのくせ電話をかけてきて泣く女」のリアル感とか。でも、それらの良い点を総合しても、「特にアブノーマル」発言や「そのケ」発言の萎え萎え感には勝てなかったというのが実情です。
まとめ
好きな人は好きな作品なんだろうな、と思います。特に、悲恋萌えでリリカル萌えで眼鏡っ娘萌えな方にはストライクゾーンど真ん中かもしれません。繊細な絵柄や、上品なエロスが好みな方にもいいかも。でも「アブノーマル」だの「そのケ」だのという言い回しの使い方が鈍感ヘテロめいているところが、あたしには合いませんでした。キャラの見分けがつかず、読んでて疲れるところもマイナスだと思います。