石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『くろよめ』(かずといずみ、芳文社)感想

くろよめ (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)

くろよめ (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)

深い。深いよこのお話!

嫁に行くより嫁が欲しい35歳のキャリアウーマン・光子。泥酔した翌朝目を覚ますと、「世界嫁派遣協会」なる謎の団体からキュートな「お嫁さん」が派遣されていて――という衝撃の出だしで始まる百合コミック。一見エロゲ的なトンデモ設定に見えて、実は深い。深いよこのお話! 同人発表時に女性読者に人気だったというのもうなずけます。働く女性のハートをぐっとつかむリアリティに加え、意外性たっぷりの展開がいいんですよ。続編にあたるつぼみ連載作「めとらば」も収録されており、「くろよめ」を読んでから読むとまた感慨もひとしおです。キャラたちの百合ないちゃいちゃも、そして描き下ろし後日譚2編もみんなみんなよかった。

働く女性のハートをわしづかみ

「くろよめ」が面白いのは、光子が仕事も家事もできる完璧人間だということ。「平凡なダメ男のもとに、降ってわいたように『嫁』が現れて都合よく願望を満たしてくれる」みたいな願望充足系オタコンテンツとは、この点が大きく異なっています。このお話は、ひとりでも生きていける(はずの)主人公が「嫁」とのかかわりの中で自分の中の痛みに気づき、回復していくという成長ストーリーなんです。もちろん「嫁」のかわいさ・けなげさも存分に描かれてはいますが、基本的には「欲しい物は自分の力で手に入れる」(p. 85)物語であり、そこに共感する女性読者はきっと多いと思います。

特に働く女性であれば、疲れた光子の「嫁が欲しーい!」という叫びにうなずいたり、有能で「優しい」光子の心の闇に痛いところを突かれたりする人が少なくないのでは。「世界嫁派遣協会」に、実は「身元のしっかりした女性のところにしか派遣しない」という設定があったりするところもうまいもので、どこまでも読みやすく感情移入しやすいお話でした。

意外性もたっぷりです

光子と「嫁」の関係を近視眼的に追って終わりではなく、もう少し大きな枠組みが用意されているところがよかったです。意外な人が意外なポジションにいたり、ある人にあっと驚く過去があったりと、起伏に富む展開が最後まで読者を飽きさせません。ある人の過去が、番外編でも重要な役割を果たしているところもまた楽しかったです。

いちゃいちゃと「めとらば」、そして番外編もよかった!

あくまでレズビアン・アイデンティティー無きレズビアン・コンテンツの範疇でではありますが、百合ないちゃいちゃは質量ともに十分。「世界嫁派遣協会」の正体を知った後に読む「めとらば」にはまたひと味違った楽しさがあり、「くろよめ」と違って主人公が家事能力ゼロなところも良いコントラストをなしていると感じました。コミカルな番外編はどちらもラブくてかわいくてたまらんのですが、特に「めとらば」の嫁・小桃の和装のデート姿の愛らしさといったら! ああ、幸せ。

まとめ

「お嫁さん」派遣ビジネスという奇抜な設定と女性視点の心情描写がタッグを組んだ、実にユニークな作品でした。百合百合しいかわいらしさや心のつながりもよかったです。嫁に行くより嫁が欲しいすべての女性に、超おすすめ。