ニューヨーク市立大学ジョン・ジェイ・カレッジのケヴィン・ナダル(Kevin Nadal)准教授が、LGBTの人たちが日常的に何気なく投げかけられている偏見的・侮辱的なことばをプラカードに書いてもらい、それを写真に撮ることで視覚化しました。
詳細は以下。
19 LGBT Microaggressions You Hear On A Daily Basis
ナダル准教授が今回集めたような、「発話者の悪意の有無とは無関係に、相手に対する侮辱や攻撃として機能してしまう微妙なことば(や、行動)」のことを、「マイクロアグレッション」と言います。同准教授は、米国の写真家であるKiyunさんが手がけた「大学生に自分が遭遇したことのあるちょっとした人種差別をプラカードに書いてもらい、写真を撮る」というプロジェクトにヒントを得て、それのLGBT版をつくることを思いついたのだそうです。
元記事では全19人がプラカードを持って立っている写真が紹介されているのですが、そのうちいくつかのプラカードの文面を日本語にしてみます。
本当のセックスをしたことはあるの?
have you ever had REAL sex?
わかりすぎて涙が出るわ。早い話がこれは、かつてあたしがダメダメ百合エロゲー『恋夏~れんげ~』(JOKER)のレビューで怒り狂った「男女間のセックスだけが本当のセックス」論ですね。百合漫画界で跳梁跋扈する「女同士はノーカン」説も、この延長にあるんじゃないかと。
「……私がホモフォビックなんじゃない、あなたが過敏なだけだ」
"...I'm not being homophobic, you're just being too sensitive..."
Twitter等に掃いて捨てるほどいますねー、こういう人。
どうしてドレスを全然着ないの?
WHY DON'T You EVER WEAR DRESSES?
余計なお世話だし、相手がトランス男性かもしれないという発想はなしですか。
それでさ……つきあってる男は誰なわけ?
SO...WHO'S THE MAN IN THE RELATIONSHIP?
「恋人がいる」と知られたとたんにレズビアンが出くわす典型的質問。最初からこっちがヘテロだと決めてかかってくるの、やめてほしいわ。
見せてくれさえすれば俺は全然OKだよ!
THAT'S TOTALLY COOL WITH ME AS LONG AS I CAN WATCH!
これもレズビアンにとっては耳にタコができるほど聞き飽きたことば。発言する側はとても面白いジョークを言っているつもりなのかもしれないし、寛容な俺様アピールをしているつもりなのかもしれないし、その両方なのかもしれません。でも、そもそも見世物じゃないって発想がまるでないあたりがめちゃめちゃ差別的。
それで思い出したんだけどさ、あたし、ノンケ女子の大親友がいるのよ。その子が職場で、話の流れで「わたしレズビアンの友だちがいるんだけど」とあたしのことを話したことがあるんだって。その途端、複数人が好奇心を剥き出しにして「どんな人だ。写真はないのか。見たい」と食いついてきたそうよ。友人は即座に「わたしの友だちは見世物じゃない」と怒ってくれたそうだけど、やっぱりねー、レズビアンだというだけで瞬時に「俺様の好奇心(やら性欲やら?)を満たす鑑賞物」の箱に入れちゃって人間扱いしない、プライバシーのことなんか考えもしない、そういう人は多いのよ。
どうして自分の身体を切り落としたいのかぜんぜんわからない。
I just don't understand why you'd want to mutilate your body.
トランスジェンダーに向かって言われたとおぼしきことば。「切り落とす」の部分は原文では"mutilate"という単語が使われているのですが、この語には「傷を付けて台無しにする、不具にする」みたいなニュアンスがあり、決していい意味のことばではありません。
あなたは変態(クィア)じゃないわ……彼氏がいるんだから!
YOU AREN'T QUEER...You have a boyfriend!
バイセクシュアル女性がよく出くわす偏見。異性愛者のみならず、頭の悪いレズビアンもよくこういうことを言いますな。
奥さんや子供はどこにいるの? (答え:ぼくの両親の想像の中にいるよ!)
Where are your wife & kids? (ANSWER: in my parents' imagination!)
余計なお世話シリーズ。いずこも同じねー。
(家族の集まる行事に参加すると)
どうして結婚してないの? 彼氏はどこにいるの?(ENTER FAMILY FUNCITONS)
Why are you not MARRIED yet? Where is your BOYFRIEND?
これも日本と同じですね。どうしてこう勝手に相手をシスヘテロと決めつけてしまうのか。
親愛なるリベラ博士 令夫人……(ある招待状より)
Dear Dr. & Mrs. Rivera...(from an invitation)
「男性のパートナーは女性に決まっている」という思い込みですね。いないことにされてしまう男性パートナーさんに失礼だし、博士にも失礼。
「こちらはぼくのゲイの親友」
"This is my Gay best friend."
そこでわざわざ「ゲイの」という部分を強調する意図は何なのよ。ゲイに限らず、マイノリティの「親友」なるものをなにかのトロフィーみたいに誇示したがる人っているよね。それを皮肉ったスティーブン・コルベアの以下のギャグを見たことがある人もいるんじゃないかな?
あなた両性愛者なの? それだとパートナーが不安になっちゃわない?
YOU'RE BISEXUAL? DOESN'T THAT MAKE YOUR PARTNER INSECURE?
「両性愛者は多情」という偏見を、わざわざ当の両性愛者に向かって開陳する大馬鹿者。こういう人っているよね、どこにでも。
さて、ここまで斜め読みしてきて、何かがカンに障って「悪気はないのに差別扱いか! おまえらが過敏なだけだ!」とまさに上の引用文のようなことを言って怒り出す方というのもきっといらっしゃることと思います。中には「こんなことで騒ぐお前らの方が差別者だー!」なんて言い出す人もいるよね、きっと。そのような方には、カラパイアさんの以下の記事をおすすめしておきます。
日常会話の中に混ざりこんだ悪意。目に見えない人種差別「マイクロ・アグレッション」 : カラパイア
日本人が白人から「そんなに小さい目で白人と同じだけ見えてるの?」だの「米臭い」だのと言われて胸の奥で感じるモヤモヤは、はたして「自分が過敏なだけ」ですかね。「そういうことを言われるのはイヤだ」と表明したら、その日本人は「白人に対する差別者」なんですかね。あたしは違うと思いますよ。