石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

レビュー内に書ききれなかった『カタハネ』のネタバレ感想をぼちぼち書いてみるよ。(その3) - 「しててっ、しててって」

カタハネカタハネ

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ネタバレ感想シリーズ最終回。今回は、『カタハネ』の緻密な伏線の中から、特に印象に残ったものをいくつか取り上げてみたいと思います。

「おねえさま」が共演者に

最初アンジェリナがマリオンを「おねえさま」と呼ぶのを見たときには、飲んでたコーヒー吹くかと思いました。「え、これってそんな陳腐な百合話だったの!?」と思って。

ところがその後、アンジェリナとベルの全然陳腐じゃないラブストーリー(カトリック系女子高も『お姉さま』も出てこないぜ! 手垢のついた『禁断』でも『背徳』でもないぜ!)が順調に進んでいくので、アンジェリナの「おねえさま」発言は単によくある百合話をメタ視する役割を果たしているのだとわかります。ちょうど、漫画『最後の制服』がタマちゃんの小説を使って既成の「百合」ジャンルをメタ視してみせているようなものですね。

それだけでも十分面白いのに、お話の大詰めになってなんとマリオンがアイン役で颯爽と再登場するところがすごい。序盤でアンジェリナが一方的に「おねえさま」に憧れているのに対し、マリオンが少しも目上ぶらず、「……次は、舞台の上で会いましょう」と言っていたのは、実はここにつながる伏線だったんですね。いささか深読みになってしまいますが、あたしはこれも平凡な百合物をメタ視して笑い飛ばす描写なのではないかと思いました。「劣位の者が優位の者にただうっとりと憧れるのなんて、恋じゃない。それより同じ舞台に立つぐらいの気概を持たんかい」ってことです、要するに。実際、マリオンの夫ファビオはマリオンを女神のように崇めつつ、舞台の上では好敵手として燃えに燃えているじゃないですか。そういう風に認め合って共に歩けるのが恋でありパートナーだよ、というメッセージを勝手に感じました。

ライトの夢に出てくるクリスティナ

「なんでそんな夢を?」というのが最初の印象。いくらアンジェリナをクリスティナ役に抜擢するためだとしても、いささかご都合主義なんじゃないか、とその時点では思いました。
ところがトゥルーEDにつながるメインシナリオでは、なんとライトとワカバはクリスティナの家系らしい(本人たちは最後まで自覚ゼロですが)とわかります。そもそもワカバがこの話を思いついたのも、ワカバがクリスティナの夢を見たからだったというから驚き。これは、この家に代々伝えられてきた「ドルンの記憶」にライトとワカバの血が鍵となって働き、かすかにクリスティナの記憶が甦ったということでしょう。

ライトが見たたわいない(ように見えた)夢がまさかこんな壮大な伏線だったとは思いもしませんでしたし、クリスティナの血縁がアンジェリナではなくワカバだったというところにも唸りました。「血」や「生まれ変わり」のせいで恋に落ちましたなんて、興ざめですもん。ベルがセックス中に名前を呼んで欲しがるシーンでもわかる通り、「その人がその人だからこそ愛する」というのが『カタハネ』の重要なテーマですから、これは非常にうまい設定だと思いますね。

「しててっ、しててって」

ココのこの言い回しが初めて出てくるのは、白の都でセロに「ホテルの人から絵本を借りた」と話すシーンです。

ココ「コレ読んで、静かにしててねって。
「してて、しててー、ねー」
何だか『しててねって』言い方、『て』がいっぱい。間違えたら、ててててて……とか言っちゃう?」

これだけなら単純に「ココ可愛いなあ」で終わったんですが、同じフレーズが、『クロハネ』Story XIII「贖罪」で、亡くなる直前のデュアとの会話にもまた出てくるんですよ。

ココ「エファに、たのまれたの。デュアと、おはなし、しててって」

デュア「…………エファが……」

ココ「しててっ、しててって。なんか、ヘンだね、しててって」

デュア「……うん、おかしい、ねーっ」

ココ「あー、まねっこ? ボク、まねされたー?」

デュア「…………あぁ……ちょっとだけ、な。似ていた、か?」

ココ「うんうん。ちょっとだけ、ね。ちょっとだ、けー」

この後、ココに見守られてデュアは亡くなります。「ココの顔を見て話をしていると、とても安心できる/ココの無邪気な顔を見て、微笑まない者が居るだろうか?」と、心の中で思いながら。
100年間ずっと、ココは変わってなかったんですね。ずっと、この無邪気で可愛い口調で周囲の人たちを安心させてきたんです。こんな悲痛な場面でさえも。

お話がもっと進んでココの記憶が甦ったとき、「ココ。あなた、ほんとうに、大変、だったの、ね……」とワカバは泣きますが、プレイヤーはクロハネ編のこのシーンで既にココの背負ってきたものを知ることになります。そこがとてもよかったです。

まとめになってないまとめ

以上3回に渡って『カタハネ』のネタバレ感想を書いてきたのですが、本当はこれだけでは全然足りません。たとえば今回のテーマ「伏線」ひとつ取っても、まだ他にも笑わされたり泣かされたり驚かされたりした伏線は、山のようにあります。けれど、その全部について感想を述べるのは物理的にも時間的にもとても無理。すごすぎるよ『カタハネ』。そんなわけで、ネタバレ感想はひとまずここで終了とします。「レビューだけじゃ足りないよー、うおー」と思っていたことがいくらかなりとも書けて、満足です。