石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

レビュー内に書ききれなかった『カタハネ』のネタバレ感想をぼちぼち書いてみるよ。(その2) - 「アインのお墓の意味」

カタハネカタハネ

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もっとも心を動かされた「二転三転」

『カタハネ』のレビュー内であたしは、

伏線が新たな新事実につながるたびに物事の意味がダイナミックに二転三転し、そのたびにニヤリとしたり泣き笑いしたり目頭が熱くなったりで、感情を揺さぶられまくりました。ちなみにあたしがもっとも心を動かされた「二転三転」は「アインのお墓の意味」です。詳しくは述べませんが、きっちり3回泣かされて、アインが大好きになりました。

と書いています。今回は、それについてもう少し詳しく書いてみようかと思います。

アインのお墓、第1の意味

お話の中に最初にアインのお墓が出てくるのは、セロたち一行が白の都に行ったときです。都のはずれ、寂しい道の真ん中にアインのお墓はあります。「逆賊アインを永遠に踏みつけさせて罰を与えるため、亡くなってすぐそこに墓が作られた」ということになっており、実際その墓は100年間ずっと踏まれ続けてボロボロにすり減ってしまっています。つまり、ここではこの墓は「憎い逆賊をこらしめるためのもの」でしかありません。

DL版の『クロハネ』体験版からプレイを始めたあたしとしては、もうこれが本当に悲しくて悔しくて。「アインは逆賊なんかじゃないのに、なんでそんなことに!? あんなに一生懸命姫様と白の国を護ろうとした人にこんなのひどいよ、気の毒だよ!」と、ひたすらつらくてやるせない気持ちになったんですよ。そのときは。

アインのお墓、第2の意味

クロハネ編の「Secret Story 逆賊の汚名」を見て初めて、クリスティナの死後に本当は何があったのかがわかります。アインは逆賊の汚名を「着せられた」のではなく、エファを逃がすために自ら「『姫君殺しはアイン・ロンベルク』ということにしてもらおう」と申し出ていたんですね。そしてココの額にキスして――これは、デュアとの間接キスでもあります――城を去り、最後の瞬間にも「全ての罪は、私にある」と言い残して死んでいったんですね。この時点で、アインのお墓は、「本懐をとげた策士が眠る場所」に様変わりをとげています。

ここまで読んだときは思わず「アイン、この策士め」と泣き笑いしてしまいました。あえて逆賊の汚名を着ることで、彼は主君クリスティナの愛したエファを護り抜いてみせたんですからね。しかもお墓の位置が100年間あのままということは、赤の国も青の国も100年間みごとに彼に騙されたままだったということです。「アイン、あんたの勝ちだよ。お墓を踏んづけられるのは悔しいだろうけど、きっとアンタは天国でデュアと一緒に『してやったり』と笑っているよね」と、ちょっとだけ救われた気分になりました。

アインのお墓、第3の意味

トゥルーEDでは、本当は白の都郊外の墓にはアインの骨はなく、アインはジルベルクの墓地に眠っていることが明かされます。そうしたのはベルの「お父さん」ことレインさん。本名がアインと同姓同名(だから「Ein」にRをつけて「Rein」と名乗っていた)な彼がこっそり骨を掘り出して移動させていた、という真実が、ここで初めて語られます。お話のごく最初の方で、レインが名前ではなく「じいさん」と呼んで欲しがっていたのは、実はこの伏線だったわけですね。深読みをするならば、レインがベルを名前で呼ばなかったのも同じ理由によるものかもしれません。「人は本当の名前で呼ばれるべきだ」とか、「仮の姿でなく、本当の自分自身を愛されることこそ幸せだ」と、彼は思っていたんじゃないかと思います。

さて、ここまで来るともう、「踏んづけられるのは悔しいだろうけど」などという留保すらなくなり、「良かったねアイン。ここで静かに眠っていたんだね」と、うるうるしてしまいました。赤の国も青の国も騙し抜き、エファも「ドルンの記憶」も無事に護り切って(まさかワカバの一族に伝えられていたとは驚きましたが)、実はあんなに綺麗な村に眠っていたなんて。いずれセロの研究が逆賊の汚名も晴らすでしょうし、これ以上のハッピーエンディングがまたとあるだろうかと、しみじみと嬉しかったです。ここに至ってアインの白の都のお墓は「騙された人々が踏んづけるだけの場所」、ジルベルクのお墓は「主君を護り抜いた英雄が静かに眠る場所」となっているなあとあたしは思いました。

そして、お話の最後に

トゥルーEDでお話の最後を締めるのは、晴れて墓碑銘を刻まれたアインのお墓の前での、ココのこの台詞。

「アーイーン。……バイ、バイ」

これ、クロハネ編のオープニングで、馬車のひづめの音の中ココが叫ぶ「アーイーンー。ボク、バイバイして、ないよー」を受けた台詞ですよね。オープニングムービーにある通りに「”ココ”から始まった(クロハネの時代に)」お話がココによって幕を閉じる(シロハネの時代に)こと、そしてその閉幕の場所がまさにお話の柱であるアイン・ロンベルクの墓前であることがたいへんにおもしろいと思いました。『カタハネ』が「ココに始まり、ココに終わる」物語であることは明白ですが、見方を変えれば「アインに始まり、アインに終わる」お話でもありますからね。それを象徴する心憎いエンディングだったと思います。

まとめ

以上のようなわけで、『カタハネ』をプレイする上で、アインのお墓というのはとても重要なポイントだとあたしは勝手に思っています。こういう要素がしっかり物語を支えているからこそ、『カタハネ』はこんなにも深い話になっているのでしょうね。