石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『眠りつづけるお姫様』(きみおたまこ、フランス書院)感想

眠りつづけるお姫様眠りつづけるお姫様
きみお たまこ

フランス書院 1999-12
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器具使用多めの18禁レズビアンエロ漫画

11編中7編がレズビアンもののエロ漫画です。最大の特徴はペニバンやバイブレータなどの器具使用が多いことと、にもかかわらず異性愛規範のおしつけが皆無なこと。女のコ同士のポリアモリー的な愛が肯定的に描かれているところもとてもよかったです。SM調教などの要素がかなり多めなのに、それでいて少しも陰惨にならないところもいいですね。女性同士のセックストーイを使ったラブラブHが見たい方に最適な1冊だと思います。

収録作「桜と桃シリーズ」(計6話)について

「実体験したことしか描けないエロ漫画描きの『桜』と、そんな桜にモデルとしてこき使われる妹の『桃』」を主軸にしたシリーズ。要するに姉妹百合なんですが、今回は「早夜」(さや)と「あやか」という別のカップルも絡んで、「姉妹百合+ポリアモリー」的なお話となっています。

どちらのカップルでも妹がお姉ちゃんまたはお姉様に切ない片恋(桃→桜、あやか→早夜)をしているのですが、一方で桜は早夜に惚れていたりもして、彼女たちの恋模様は混戦をきわめています。ここで非常に面白いのは、なんだかんだであやかと桜という意外な組み合わせが誕生すること。それが浮気とか心変わりとかいう陳腐な文脈ではなく、ポリアモリー的に描かれているところがとてもよかったです。たとえば桜のこんな台詞(p97)など、非常に印象的でした。

もちろんお姉様(引用者注:早夜のこと)は好き♥ これからも♥ だけどあやかちゃんに愛しさと大切さを感じるよ でも それは 今までと同じ気持ちに「あやかちゃんが好き」って気持ちがプラスされただけ……」

現代日本では、「嫉妬や独占欲をともなう一対一の関係(モノガミー)こそ愛である」的な恋愛規範が主流を占めていますが、別に愛のかたちはそれ以外だっていいわけですよ。全員合意のもとで複数で愛し合う、という形態(ポリアモリー)だって、当然あっていいわけです。そういうことがサラッと描かれているのが、この漫画のすごいところ。ちなみにあやかが桜に抱かれて破瓜を迎えるシーンとか、桜・あやか・桃の3Pのシーンとか、ラブい描写もてんこもりです。

冒頭で書いた通り、全体的にセックストーイを使う場面がとても多いです。が、男の代用品としてそれらの器具を使うのではなく、単に大好きな相手と快楽を味わうために使うという姿勢が一貫しています。このシリーズの唯一の難点は、かなり読み込まないとキャラクタの見分けがつきにくいところなのですが、これはもともと別の単行本から続いているお話らしいので、途中から読んだ自分が悪いってことでノーカウントとします。

収録作「この手で貴方を壊したい」について

美少女「リリ」と「お姉様」とのSMもの。スカトロあり器具ありフィストファックありと、お姉様の責めはかなりハードなんですが、全体を通してみると「SとMとは表裏一体」ということがよくわかる構造になっています。つまりSの側にあるのは決して壊す快楽だけではなく、壊れていく快楽も同時に存在するってこと。で、Mの側も実は同じってこと。そうした奥行きがあるストーリーがとてもいいし、リリとお姉様の深い愛もよかったです。

その他のお話について

上記以外の4編は全てヘテロ話です。基本はラブラブ、あとアナルとスカ要素あり。

まとめ

器具・SM・姉妹・ポリアモリー・破瓜(女同士で)など、いろんな要素を詰め込んだエロくてラブい♀♀漫画でした。1999年の作品なのに全然古さを感じさせないのは、人間の感情面の描写にリアル感があるからなんでしょうね。モノガミー至上主義の方および指と舌至上主義の方には向きませんが、そうじゃない方には超おすすめです。