石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『ストライクウィッチーズ 乙女ノ巻』(南房秀久、角川書店)感想

ストライクウィッチーズ  乙女ノ巻 (角川スニーカー文庫)

ストライクウィッチーズ 乙女ノ巻 (角川スニーカー文庫)

  • 作者: 南房秀久,島田フミカネ,上田梯子,Projekt K
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2008/08/01
  • メディア: 文庫
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百合としても小説としてもごく薄口。あくまでアニメ版のファン向け?

うすーい、としか言いようがないこの読後感。小説としても百合ものとしてもあまりにも物足りない作品です。もっとも、特に百合を標榜した作品ではないようなので、百合小説としての薄さについてはまだ納得できます。しかし、数だけ多いキャラクタたちの描写がことごとく浅く、クライマックスの盛り上がりにも欠けるという点はどうにも擁護しがたいかと。この『乙女ノ巻』はアニメ版と同じ時系列&キャラクタのお話のようなので、あくまでアニメ版のファン向けに、「キャラの出演そのものが売りで、お話は二の次」というスタンスで書かれた作品なのかもしれません。

小説としての『ストライクウィッチーズ 乙女ノ巻』について

キャラ描写浅し

お話の舞台は1943年。突如現れた人類の敵「ネウロイ」に、戦闘機ならぬ戦闘脚「ストライカーユニット」を駆る魔女(ウィッチ)たちが兵士として立ち向かう、という設定です。それはいいんですが、キャラの数ばかり多くて、ひとりひとりの個性が全然掘り下げられていない点はどうにかならんのかと。地の文で「この人はこういう人」と延々説明されている部分(pp. 127-128)があるにはあるのですが、そういういわば設定資料集の引きうつしではなく、ストーリーの中でキャラの個性を打ち出してほしかったと思いました。

しかし、ストーリー内でキャラの個性を追求しようにも、キャラとキャラとの関わりがどうにも散漫なんですねこの作品。主人公「宮藤芳佳」と、芳佳を軍に引き入れた「坂本美緒」の関係性(尊敬にせよ思慕にせよ)が追求されていくのかと思いきや、芳佳は途中から急に友だちの「リーネちゃん」に追いつけないことを気にし出します。ならばリーネとの友情エピソードでも出てくるのかと思えばまったくそんなことはなく、クライマックスの芳佳はまた別のキャラ(ルッキーニ)の身体を支えてネウロイと対戦。いったい何がしたいのかよくわからない展開です。このように「キャラたち(主人公含む)がちょこちょこと出てきては順列組み合わせ的にきゃぴきゃぴ関わり合って退場」ということしかしていない以上、各人の内面の掘り下げなんぞ夢の話。なんとかならなかったんですかこの構成。

クライマックス盛り上がらず

上に述べたキャラ同士の関わりの散漫さ&内面描写の不足が、クライマックスのインパクトの無さにも直結していると思います。具体的には、ルッキーニが唐突に叫ぶ

「あたしがあたしを信じらんなくても……あたしには、あたしを信じてくれる仲間がいる!」

という台詞(p. 197)があまりにも文脈無視で空回りしている、ってことです。「あたしがあたしを信じらんなくて」も何も、ここまででルッキーニが自己不信に陥っていることを示すエピソードはひとつもないんですよ。「信じてくれる仲間」云々にしても、仲間同士の信頼や結束を示唆するエピソードも別にないんです。これで盛り上がれという方が無理。

百合小説としての『ストライクウィッチーズ 乙女ノ巻』について

これはもうべらぼうに薄いです。せいぜいがとこ、ペリーヌが坂本に「恋愛感情に近い崇拝」(p. 57)を捧げているぐらいのもの。ストライクウィッチーズの登場人物 - Wikipediaによると、アニメ版の宮藤芳佳は

リネットやシャーロットの巨乳を見て少々よこしまな感情を抱くなど、まるで男の子のような感性も併せ持っているようである。

とのこと(余談だけど、この『乳を見てよこしまな感情を抱く=男の子のような感性』っていう無邪気なヘテロセクシズムには苦笑せざるを得ませんな)ですが、この『乙女ノ巻』の芳佳は別に女性に対して恋愛・性愛方面の興味はなさそう。というわけで、特に見るべき百合展開はありません。

結局はアニメ版のファンだけを向いた「顔見せ興行・パンツ付き」?

ここまで見てくると、どうもこの作品は、「アニメと同じキャラが総出演してますよー」という点を最大の売りにせんがために、その他の要素を全部切り捨てた代物なんじゃないかという気がします。つまり、これだけ少ないページ数(計214ページ)に11人も詰め込んでキャッキャウフフさせたら、キャラの内面だのストーリー性だの百合っぽいあれこれだのを入れる余地がなかった、ということなのでは。

もうひとつ付け加えるなら、パンツの登場のさせ方が無理やりすぎるあたりも、アニメ版(別名『ストパン』)のファンへの迎合っぽくてうんざりです。具体的には「飛行中にパンツを引っ張って人ひとり支える描写が延々と続く」って点ですけど、それだけ引っ張っても身体を支えられるパンツって、どんなごっつい代物だ。男物のトランクスじゃないんだからさー。ちなみにこの『乙女ノ巻』には「パンツ状のズボン」という説明はなく、堂々と「パンツ」と表記されているため、パンツじゃないから伸びないという言い訳は不可能です。

まとめると、これは「小説」としてとらえるより、「ファン(アニメ版の)サービスのためのなまぬるい顔見せ興行・パンツ付き」とでも受け取っておいた方がより正確なモノなんじゃないかと思います。そもそも全体的な構成からして台詞ばかりで、あんまり小説らしくないってこともありますしね。

まとめ

物語としての面白さを捨ててまで「アニメと同じキャラが一通り出てくること(と、パンツを出すこと)」だけに拘泥した、あくまでアニメ版のファン向けと思われる一品。百合物としても非常に薄いため、百合好きさんにはあまり向かないかと思います。同じストライクウィッチーズものの小説なら、ヤマグチノボル氏によるスオムスいらん子中隊シリーズの方がはるかにおすすめです。