石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『やえかのカルテ(全3巻)』(武田日向、角川書店)感想

やえかのカルテ (1) (ドラゴンコミックス)

やえかのカルテ (1) (ドラゴンコミックス)

動物好きにはたまらない微百合漫画

パラレルワールド設定の北海道で、獣医見習いの主人公「やえか」が、同じく獣医を志す親友「芹奈」とともに成長していく物語。あくまで友情ベースのほんわかストーリーであり、この3冊だけだと百合ものとしては非常に薄口です。ただし、実はこれは番外編の「YAEKA'S AIRMAIL」(『狐とアトリ』(武田日向、富士見書房)収録)まで読んで初めて完結する物語。「YAEKA'S AIRMAIL」のあの心憎い結末を心ゆくまで味わうためにも、絶対に読んでおくべき3冊かと。ちなみに動物漫画としても秀逸で、緻密に描かれた動物たちの絵も、人と動物とのかかわりを真摯に描いていくストーリーもとてもよかったです。

微百合な友情要素について

あくまで友情の範疇ですけれども、やえかと芹奈のほのぼのした仲良し感がとてもいいです。お互いがお互いを尊敬して、大切にし合っているところなんかも。また、芹奈を何かにつけてライバル視する「周(あまね、♀)」が、「それって好きってことでしょ?」とやえかに指摘されて頬染めるあたりも、微百合と言えば微百合。他に、芹奈をひたすらに慕う後輩「珠貴(たまき、♀)」の存在なども、ごくかすかな百合っぽさをかもし出しています。どれも同性愛とは違う文脈の話なので、ガチ恋愛系の百合作品をお探しの方には向きませんが、女のコ同士のあたたかい友情がツボな方にはとても良い作品かと思います。

番外編「YAEKA'S AIRMAIL」(『狐とアトリ』(武田日向、富士見書房)収録)について

これについては後日『狐とアトリ』のレビューで詳しく書くつもりですが、最後の1ページが本っっ当にいいんですよ。正直言って、これを読まなかったら『やえかのカルテ』自体は「面白いけど、『百合』というにはちょっと違うんじゃ……?」と判断してしまっていたかもしれませんが、あんなスゴいもんを見せられた日には、「百合作品ですが何か?」としか言えませんよもう。

とは言え、ここまで行ってもいわゆる同性愛方面のお話にはならないんですけどね。でも、あれだけ短い会話であんなに強い「絆」を鮮やかに表現されたら、もう、「参りました」と頭を下げるよりほかありません。『やえかのカルテ』を読まれるなら、ぜひこの番外編まで読破されることをおすすめいたします。

動物漫画としての『やえかのカルテ』について

犬猫だけでなく鳥やトカゲ、ウサギ、ロバ、カニなど、さまざまな動物が愛情たっぷりのタッチで丁寧に描かれているところがまずよかったです。どれも緻密で写実的なのにほっこりとあたたかい絵で、動物好きなら悩殺されること間違いなし。ちなみにあたしはカニとインコに萌え死ぬかと思いました。

ストーリーの方も、単に萌えキャラが動物を可愛いがってはしゃいで終わりでないところが素晴らしい。獣医の仕事が畜産という「動物を殺す」ことにも関わるものであること、そして獣医でなくとも生けとし生きるものは他の命を殺して食べざるを得ないことなどががっつりと描かれた、誠実で手ごたえのあるストーリーでした。「人と動物が共に生きるとはどういうことか」というテーマに真摯に取り組んだ、素晴らしい動物漫画だと思います。

まとめ

女のコ同士の友情物語としても、また動物漫画としても優れた作品だと思います。この3冊だけだと百合ものとしては非常に薄口ですが、これを読んでからさらに『狐とアトリ』に収録された番外編「YAEKA'S AIRMAIL」まで読み進めば、もう文句なんて言えなくなってしまうはず。恋愛寄りのストーリーでないとお気に召さない方には不向きですが、そうでない方には強力におすすめです。