石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『トランジスタティーセット〜電気街路図〜(2)』(里好、芳文社)感想

トランジスタティーセット ~電気街路図~ (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

トランジスタティーセット ~電気街路図~ (2) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

百合っぽさ減少。でも、漫画としては十分イケる

変わりゆく秋葉原とその住人たちをあたたかな視線で描くコメディ、第2巻。今回はみどりからすずへの気持ちがほとんど描写されず、百合っぽさはやや減少。絵づらの上での体の接触度こそ高いのですが、感情面の盛り上がりについては比較的淡泊な巻だったと思います。でも、もともと百合を全面に押し出した作品ではないので、これはこれであり。ちなみにこの巻では過去話としてすずの男性相手の初恋(?)エピソードが登場しており、一部の百合オタさんは憤死するかもしれませんが、あたしはかえって面白いと感じました。相変わらずの秋葉原への愛もよかったし、1巻からの大きな伏線が着実に回収され始めているところもナイス。百合漫画としてというより、まず漫画として面白かったです。

百合方面は淡泊です

いや、これを「淡泊」ととるか「濃厚」ととるかは、何をもってして百合っぽいと判断するかによって分かれると思うんですけどね。「絵づら上での体の接触度=“百合度”」とお考えの方には、今回の内容はかなり濃厚なものと映るかもしれません。でも、女のコ同士での好き感情の度合いを重視する人にとっては、この巻は非常に薄口に感じられるはず。で、あたしは後者なんです。

今回、女性キャラ同士の身体的な接触はわりと多いんですよ。「みどりがすずを押し倒して服をひんむくの図」とか。「新キャラ・エミ太(♀)が上半身裸でさいりを抱きしめ、さいり失神するの図」とか。でも、読んでみればわかりますが、これらは全て恋愛感情や欲望とは無縁の、単なる成り行きによるシチュエーションです。そんなわけで、個人的にはノーカウント。そもそも2巻ではみどりからすずへの好き感情(友情寄りだとしても、です)がほとんど表明されないため三角関係のテンションも低く、心理面での百合百合しさは総じて少なめだと思います。漫画としてはじゅうぶん面白いので、女のコ同士のあれこれは単なるフレーバーと割り切って読んでおくのが吉。

すずの過去エピソードについて

1巻の時点で既にすずのヘテロ性(というか百合な恋愛への興味のなさ)は明示されていたと思うのですが、今回はすずの中学時代の淡い男女恋愛エピソードが披露されており、ますますヘテロ路線をまっしぐらです。こういったエピソードを嫌う百合好きさんもいるかもですが、あたしはかえってキャラクタの立体感が増して面白いと思いました。そもそも出てくる女子キャラの全員が全員とも女子好きな人、みたいなドリーミー展開は「秋葉原」ではなくもっぱら「アキバ」のオタ文化に属するものであって、このお話の趣旨に合わない気がしますしね。あと、「バリヘテゆえにさいりやみどりの気持ちにまったく気づかない」という理由づけにもなっていいのではないかと。理由もなしにひたすら周囲の好き好きアピールを見落とし続けてるんじゃ、単なる駄目エロゲの鈍感主人公ですし。

その他いろいろ

  • 秋葉原を外から見る視線と中から見る視線の対比が面白かったです。マスコミが「オタク」というレッテル通りにアキバを消費しようとする第12話がその典型ですが、メイドカフェへの誤解にみどりが笑顔でキレる11話なんかもよかった。
  • 秋葉原に実在する(した)場所の使い方も、1巻と同じく巧みでした。
  • すずの半田ごて愛(というか電子工作愛)に涙。楽しいよね、はんだ付け。
  • 第10話でみどりがすずに明るく言い放つ台詞がすごくよかった。以前からの伏線ともリンクしつつ、今後のお話の方向性を指し示す名言だと思います。

まとめ

もともと微百合路線なお話ではありますが、今回は百合テイストはさらに減少。でも、秋葉原への愛情は相変わらずたっぷりで、楽しく読めました。別に無理やり百合ん百合んにする必要もないので、このままの面白さを保ってくれたらと思います。