石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『すこやかパラダイムシフト』(すこやか、一迅社)感想

すこやかパラダイムシフト (IDコミックス 百合姫コミックス)

すこやかパラダイムシフト (IDコミックス 百合姫コミックス)

絵もストーリーも今一歩。残念な百合短編集

主従百合、姉妹百合、OL百合など計7編の作品がおさめられた短編集。初単行本だそうですが、どれも掲載作というより投稿作レベルなのでは。と思ったら事実「LIVE WITH MY SISTER」は一迅社コミック大賞投稿作品だったんですが、それ以外の作品も、絵もストーリーも今一歩の感があります。ギャグのはじけっぷりが足りないところや、エロ描写がぎこちないところなどもマイナス。ホモフォビアを描くだけ描いて、そのフォローが一切ないところもひっかかりました。

絵とストーリーについて

絵は硬さが、ストーリーは説明不足とオチの弱さが目立ちます。特にオチのつけ方に関しては、「連載第1回で打ち切りになってそのまま放置」みたいな尻切れトンボ感が漂う作品が2編もあるのはなんとかならなかったのかと。具体的には、「秘密の宮園」と「虫養い」ですが、どちらも「え? これで終わり?」と拍子抜けしてしまいました。これはひょっとして、未収録の続編があったりするのでしょうか?

既存のイメージによりかかるばかりで説明の手を抜いているように見受けられるところも残念です。たとえば「恋海月―ちくっと―」では、綺沙良になぜ身辺護り(ボディガード)がついているのか、「恋海月」が伝わっている白松家とはいったいどんな存在なのかが一切伝わってきません。そりゃ、漫画の世界ではボディーガード付お嬢様も謎の秘薬が伝わる旧家もぶっちゃけありがちではありますが、だからと言って説明をすべて放棄していいってもんでもないと思うんです。

エロ表現について

エロ表現は「濡れ下着」「パンツを脱がす」「乳を揉む」などのAV的な記号を散りばめてあるだけで、かなり男性目線の(または、男性目線に迎合した)描き方だと思います。これで興奮できるのは、こうした記号に即反応するようヘテロ向けポルノで条件づけされた人だけなんじゃないかしら。もちろん、そうした層のウケを狙うなら、これはきわめて正しい戦略なのでしょう。が、あくまで女のコ×女のコの話が読みたいこちらとしては、がっかりでした。女のコ同士ならではの柔らかさとかエロさとか興奮とかが、ぜんぜん伝わってこないんだもん。

ギャグについて

風邪のとんでもない看病法が出てくる「極み! Cure me」あたりは健闘しているとは思うんですが、それでもまだ爆発力が足りないかと。前述の絵の硬さも影響しているのかもしれません。

ホモフォビアについて

「秘密の宮園」の主人公・桃花は、どうやら女同士のカップルのもとに生まれた子供という設定らしいです。この作品内ではそのことが「誰にも言えない秘密」(p. 36)と形容され、主人公自ら

女同士の子だと私もレズになると思われるのが嫌

と言い放っています(p. 36)。たいした同性愛嫌悪ですが、作品中にはそれについてのフォローは一切なし。たとえば桃花の母親(たち)が魅力的なキャラとして登場したりしないかと期待したのですが、そんな展開はまったくなく、桃花にとっての救済は、「一生一緒にいてくれるアンドロイドと仲良くなること」。生身の友達と仲良くなるって選択肢はなしですか。うへえ。

ちなみに現実世界では、レズビアンカップルの子供は、異性カップルに育てられた子供より多様性に対する受容度が高いという研究結果が報告されています。また、英国で行われた研究では、レズビアンカップルはヘテロカップルよりよい親になると言われてもいます。同じ研究には、同性カップルに育てられたからと言って、子供が同性愛者になる可能性が増したりはしないという指摘もあります。既にこういう研究が進んでいるにもかかわらず、人間そっくりのアンドロイドが活躍するような未来(?)が舞台の話でも「誰にも言えない」だの「レズになると思われるのが嫌」だのって、どんだけ時代錯誤よ。要するにホモフォビアを利用して桃花の孤独を演出し、それによってアンドロイドとのラブラブ感を出そうってことなんでしょうが、いち同性愛者としては非常に気分悪いです。いちいち「レズ」を嫌なものとして貶めながら百合描くのやめてよ、いいかげんに。

まとめ

絵は硬く、設定は説明不足、オチのすっきり感も足りず、エロはAV的記号の羅列、ギャグもパワー不足、そしてホモフォビアを安直に利用した話ありと、どこをとってもあたしには合わない作品集でした。これで定価900円(税込み)かー。ううむ。