石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『Unbearable Lightness: A Story of Loss and Gain』(Portia de Rossi、Atria Books)感想

Unbearable Lightness: A Story of Loss and Gain

Unbearable Lightness: A Story of Loss and Gain

ポーシャ・デ・ロッシの凄絶な自伝

レズビアンで女優のポーシャ・デ・ロッシが、壮絶な摂食障害とそこからの回復を綴った半生記。おそろしく正直で、かつ緻密な描写に胸打たれました。自分自身が摂食障害経験者で、しかもレズビアンだからわかる。この本は、ほんものです。女優なのにここまでさらけ出しちゃっていいのか!? とオロオロしつつ、「わかるわかる」と半泣きになりながら読みました。

この手の本ではレベンクロンの『鏡の中の少女』が最高峰かと思っていましたが、違いました。こっちのが上。こっちのが正確。こっちのが怖い。レベンクロンは臨床心理学者であり、良くも悪くも外から見た摂食障害を書いているに過ぎません。ところがこの『Unbearable Lightness』は、あたりまえだけど徹底的な当事者視点。血も凍るような臨場感が、そこにはあります。

自己評価の低さの話、頭の中の鬼軍曹の話、「良い食べ物」と「悪い食べ物」の話、パニック時の強迫的行動の話など、どれも悪夢と言っていいほどの鮮やかさです。寛解しているはずの自分でさえ、これ読んで一晩中体重計の夢見てうなされたぐらい。どんな学者にも小説家にも詩人にも、これは書けない。ポーシャ・デ・ロッシにしか書けない。すごいよポーシャ。ちなみに、今現在摂食障害の渦中にある人にはこの本はおすすめしません。引きずられて悪化するから。それぐらいすさまじい描写だから。

本全体の構造が、「なぜ、ポーシャは摂食障害になったのか?」という謎解きになっているところも面白かったです。つまり、ただのセレブリティのセキララ告白手記ではなく、一種のミステリとしても読める構成になっているわけ。何このサービス精神。序盤で感じたひっかかりが実は大きな伏線だったところに、すごく納得しました。特にスウォッチのエピソードは、胸にぐっさり刺さりました。そう、あのスウォッチ。軽くて薄くて安っぽくて、それこそがいいってんで一時期流行りまくったあのスウォッチ。くわしくは第25章を読んでください。

セクシュアリティに関する部分もよかった。ポーシャは『アリーmyラブ』出演時は完全なクロゼットで、孤独にさいなまれていたんです。親友から「ノンケに恋していたら、同性愛者であることを誇りに思っている(proud-to-be-gay)すてきなレズビアンに出会っても逃してしまう」と言われて、ポーシャはこんなことを考えます(p. 138)。

彼女が言えなかったのは、そんな自信あるハッピーな同性愛者女性が、どうやってクロゼットなポーシャと出会い、ポーシャの秘密のガールフレンドとして喜んでクロゼットに舞い戻ってくれるのかということだ。わたしはいったいどこで彼女に出会うのだ? スーパーマーケットでたまたまカートがぶつかったときに、自分は同性愛者で、彼女募集中で、あなたに興味があるとテレパシーで情報交換するのか?

What she couldn't quite tell me was how this self-confident, happy gay woman was going to meet a closeted Poria and be perfectly okay with going back into the closet to be her secret girlfriend. Where would I meet her? Would it occur at a supermarket when our shopping carts accidentally collided and we telepathically exchanged the information that we were gay, available, and interested?

100パーセントクロゼットでいるというのは、こういうことなんですよ。出会いがない。常に孤独。運良く恋人を作れたとしても、相手にも孤独と沈黙を強いることになる。「同性愛? 別にいいよ、見えないところで勝手にやっててくれれば」とか言っちゃうノンケさんたちは、自分がどれだけ残酷なことを言ってるのかわかってないんですよまったく。この「ほんとうの自分自身でいてはいけない」という圧力が、ポーシャの摂食障害の一因であることはまちがいないと思います。

摂食障害からの回復の過程も、おそろしいほどリアリティがありました。「ちゃんと食べて体重が戻れば治るんでしょ?」と思う皆様、違いますよ。「わかった、愛ね。エレン(有名コメディアンでポーシャの妻であるエレン・デジェネレス)との愛で癒されたんでしょ?」と思う皆様、それもちょっと違いますよ。摂食障害は、そこまで単純なものではないんです。回復にはもう少し紆余曲折があるし、「愛」が魔法の特効薬としてすべて解決してくれたりもしません。それでもなお、健康な生活を取り戻すことはできる。コントロールを手放して、自由に気楽に暮らすようになれる。ポーシャはそのことを、コインの裏表をひっくり返すことにたとえていて、これはたいへん腑に落ちました。ただのロマンティック・ラブ・イデオロギーに収束させない誠実な描き方だからこそ、エピローグで描かれるエレンへの愛と感謝が、より説得力のあるものになっています。

まとめ

ただのタレント本の枠にはぜったいにおさまらない、真摯で力強い本。とりあえずこれから『アリーmyラブ』のDVD-BOXを引っぱり出して、ネル・ポーター(ポーシャが演じた役)が登場する回を全部見直すことにします。