石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

メニューで「女々しいホモ("poof")」を嘲ったNZのサンドイッチ店、「うちはポリネシア系だから」と言い訳

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ニュージーランドのサンドイッチ店がメニューで"poof"(『なよなよした男性』または『男性同性愛者』を意味する侮蔑語)を中傷する表現を使用。批判を受けて撤回しつつも、「うちはポリネシア系の店なのでこれは侮蔑表現ではない」と主張しています。

詳細は以下。

Sandwich shop says ‘poof’ menu wasn’t meant to offend anyone · PinkNews

このお店、「バン・ミー・キーウィ(Bun Mee Kiwi)」は先週末オークランドで開店したばかり。「バン・ミー」というのは日本で言うところの「バインミー」、ベトナム風のサンドイッチのことですね。問題は、同店のメニュー表でのこのバインミーの説明の仕方にありました。以下の画像の、サンドイッチの絵のすぐ下の白い文字の文章にご注目を。

問題の部分を書き起こすと、こんな風になります。

すべて自家製のソースとパテ、ニンジン、大根、きゅうり、コリアンダーとハラペーニョ(あなたが女々しいホモでない限り!)が入った、「ベトナム風ロールパンサンドイッチ」

"Vietnamese filled roll" all served with Home made sauces, pate, pickled carrots & daikon cucumber, coriander & jalapeño (unless you're a poof!).

味覚と性的指向とは何の関係もないのに、わざわざゲイを馬鹿にしながらでないと青唐辛子も食べられないの、この店では? おそらくこれって、己の男らしさに自信がなくて、一生懸命「(想像上の)女々しいホモ」を馬鹿にして「俺はあいつらとは違う」とふんぞり返っていないと自分が保てなくなるみじめなヘテロ男性のためのサービスなんでしょうね。そんなことのためにいちいちダシにされる同性愛者にとっては、クッソ迷惑だわ。

このメニューがホモフォビックだという批判を受けて、同店はハラペーニョの説明の仕方を変えたとのこと。しかしながら、こうした批判に対する同店のfacebookでの反応は、こんなだったのだそうです。

うわ、うわ、うわ、みんな落ち着けよー。もしも「女々しいホモ」ってことばがオフェンシヴなら、もっとふさわしいことばを探すからさあ……

“Woah woah woah people relaxxx.. if the word poof is offensive we will find a more appropriate word…

(メニューを)変えるよ、仮に「女々しいホモ」がオフェンシヴなんだとしたら、もう一度謝るよ……。店内のメニューボードもあと何日かで変える……あのさ、人生は短すぎて、ク〇なもんを食ってる暇はないだろ……だから店に来て、今日バインミーを食べてみてよ……まじで人生変わるからさ

Change is made apologies again if the word poof was offensive…. the in store menu board will be changed in the next few days also … remember life’s too short for S#!t food … so get in and try a Bun Mee today… No S#!t it will change your life

この「もし~なら謝る」という謝罪スタイル("if apology")は、典型的な「謝らない謝罪」("non-apology apology")というやつですね。"poof"というのはOEDでもはっきり「軽蔑的」とされている語なのに、わざわざ仮定法まで使ってあたかもこの語をオフェンシヴだと受け取ることが非現実的であるかのようにふるまうとは、責任逃れもいいとこです。途中から話が店の宣伝にすり替わっているところも、とても誠実とは受け取れないと思います。なお、このような「謝らない謝罪」について、詳しくは以下をどうぞ。

さらに悪いことに、店長のジョン・バクスター(John Baxter)氏がGaynz.comに語った内容も、「謝らない謝罪」("non-apology apology")だったようです。

わたしたちが少数の人々を間違ったやり方で刺激してしまったことは明らかです。あのことばが使われた文脈は、誰かを攻撃することを意図したものではありませんでした。

Obviously we stirred a few people the wrong way, that context in which it was used was not supposed to offend anyone

この発言の問題点は、このあたりです。

  • 「間違ったやり方」をとった責任が誰にあるのかを追及せず曖昧にしている(『謝らない謝罪」の『間違いが起きた("Mistakes were made")』パターンに該当)
  • 抗議する人は「少数」だとして問題の矮小化をはかっている
  • 抗議する人は「文脈」を無視しているのだと示唆することで、問題を抗議者の感じ方のせいにしている

どこの国でもよく見るよねー、こういう「謝罪」文。

ちなみにこの店長、こんなこともおっしゃっているようです。

わたしたちはポリネシア系ですから、あの語はわたしたちにはオフェンシヴではないのです。

We’re from a Polynesian background and so it’s not offensive to us.

ならポリネシアで開店すれば?

ちなみにニュージーランドで2007年に実施された調査によれば、同国では同性愛者や両性愛者の子供の自傷リスクはそうでない子供の2倍、学校でいじめられるリスクは3倍だそうです。"poof"と呼ばれていじめられたという話も珍しいものではありません(例1例2)。何系の人がやっている店であろうと、"poof"は嘲笑していいのだというメッセージをこれ以上社会に向かって放つことは、許されるものではないと思います。とりあえずメニューの文言が変わったのはよかったけど、ニュージーランダーのゲイメンは大挙してこの店の前でハラペーニョ・パーティーを開くぐらいの皮肉をぶちかましてもいいぐらいなんじゃないかと思いました。