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石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

科学トークショーホストに「殺す」と脅迫 性の多様性についての回で

Unstoppable: Harnessing Science to Change the World

米国の科学教育者で司会のビル・ナイ(Bill Nye)がNetflixの番組で多様な性について述べ、同性愛を異性愛に「転換」するセラピーの問題をアニメで説明したところ、アンチLGBTなクリスチャンたちから「殺す」との脅迫が寄せられたそうです。

詳細は以下。

Bill Nye mocked gay ‘cure’ therapy and now he’s getting online death threats · PinkNews

この番組『ビル・ナイが世界を救う(原題:"Bill Nye Saves the World")』はNetflixオリジナルのトークショーで、日本のNetflixでも見ることができます。番組の主旨は、司会のビル・ナイが世のさまざまな問題や誤解に科学的な視点から切り込むというもの。問題の回「多種多様な性の個性」(シーズン1第9話)では、以下のような内容が扱われています(以下、日本のNetflixの番組説明より引用)。

複雑で幅広い人間の性について、専門家らとパネルディスカッションを行う。「クレイジー・エックス・ガールフレンド」のレイチェル・ブルームが登場。

番組をひととおり見てみましたが、広範な内容を30分という枠の中でわかりやすくまとめた、よい回だったと思います。「世の中には『LGBT』と呼ばれる人たちがいるのでわたしたち(=シスヘテロ)は配慮してあげなければいけません」みたいなアホな(そしてありがちな)説明はひとつもしないんですよ、ビル・ナイ。彼はまず、人間の性別(sex)は性染色体がXXだと「女」、XYだと「男」だということにされているけれども、400人にひとりぐらいの割でこれ以外のパターンの性染色体を持つ人がいて、したがって生物学的には性別は男女の2種類ではないのだというところから話を始めます。次に、「性のそろばん」なるカラフルな模型を使って、人間の性には生物学上の性別(sex)以外に自己認識の性(gender)、恋愛対象としてどういう人に魅力を感じるか(atraction)、自己表現(expression)など複数の軸があることを明示。それぞれの軸のどのあたりにいるかによって異性愛者、ゲイ、バイセクシュアル、Aセクシュアル、パンセクシュアルなどと呼ばれるのだということを、模型のコマを動かしながら説明していきます。ホルモンや性器の個体差についても語られますし、「男性脳」や「女性脳」、はたまた「ゲイ遺伝子」などの古い考え方が現代科学では否定されているという話もしっかり出てきます。

『図解雑学 ジェンダー』(加藤秀一・石田仁・海老原暁子、ナツメ社)(感想)の内容を、テレビ番組のかたちで最大限わかりやすくすると、こうなるんじゃないかと思いました。番組末尾のプロジェクションマッピングを使ったまとめも簡潔にして当を得ているし、Netflixが見られる環境にある人にはぜひ見てもらいたいなあ。

さて、反LGBTなクリスチャンの視聴者たちは、もちろんこの回がお気に召さなかった模様。特に番組後半に出てくるこちらのアニメ(英語字幕あり)が彼らを激怒させたようです。

これは同性愛者を異性愛者に転換するという(科学的根拠のない)「セラピー」の問題とその解決策を、アイスクリームのキャラたちを通して描いたもの。動画の中では、バニラのアイスクリームが他のアイスクリームたちに対し、バニラが一番自然で、本物で、アイスの神様に認められたければバニラなのだから、皆バニラになるべきだと主張しています。バニラになったふりをしていれば他の味のアイスになりたいという「衝動」(urge)を抑えられるのだというのがバニラの考えなのですが、ピスタチオのアイスはこんな風に反論しています。

ぼくは衝動のせいでピスタチオに変わったんじゃない。もとからピスタチオなんだ。

I did not urge to pistachio. I am pistachio.

このやりとり、まさにゲイ転換セラピーでしょっちゅう交わされる会話そのものなんですよ。こういったセラピーは主にキリスト教系の団体が運営しており、「異性愛が一番自然で、本物なのだから、神様に認められたければ異性愛者になるべきだ」「同性愛の『衝動』を抑えて異性愛者らしくふるまっていればそのうち同性に惹かれなくなくなるはずだ」という発想のもとに嫌悪療法やカウンセリング(という名の脅しや説教など)が提供されるのが常です。このようなセラピーで性的指向が変えられるというエビデンスは確認されておらず、それどころかクライアントのうつ状態や自殺願望などを引き起こす危険性があることから、いくつかの州や都市では未成年者への転換セラピーへの実施は禁止されています。しかしながら、一部のキリスト教徒はこのアイスクリームのアニメにいたく腹を立て、ビル・ナイを「殺す」などとネットに書き込んだ人もいたとのこと。少なくとも2017年5月3日現在、上記動画のコメント欄では「ビルを殺せ」「全部殺せ。全部燃やせ」「自殺しろ」「ビルは人々を自分と一緒に地獄に引きずりこもうとしている」「ビルのキャリアはこれで終わりだ」なんていう書き込みが確認できました。やれやれ。

この回の終盤では『クレイジー・エックス・ガールフレンド』のレイチェル・ブルームがこんな歌を歌っているんですが、保守的なクリスチャンの方々はこれも気に入らなかったようです。

PinkNewsによれば、「セクシュアリティーは人それぞれ」などとコミカルに歌い上げるこの曲に関して、レイチェル・ブルームを「子供をゲイセックスに誘い込もうとしている」と非難する向きもあったようです。そんなバカな。あたしなんざこの歌の、

テイタム夫妻ならどちらでも私は構わないわ 閉じ込めないで*1

Channing or Jenna Tatum / I'm down for anything / Don't box in my box

というくだりに死ぬほど笑ったけど(ジェナ・ディーワン=テイタム、セクシーだよねえ)、それでも自分がこのせいでバイセクシュアルになるという可能性は0.000001%たりとも感じませんよ。百歩譲って、仮にこの動画を見て同性とのセックスがしたくなる人が存在したとしても、それはもともと同性に魅力を感じていて、それを抑圧していた人なんじゃないの?

何にせよ、自分好みの非科学的ステレオタイプとは異なる性のありようが肯定されているだけで殺意までおぼえるという剣呑な方々には、番組半ばでビル・ナイが言っている以下のくだりをよく噛みしめていただきたいものだと思います。たとえそれが無理だとしても、普段周囲のアンチLGBTな人からの抑圧に苦しんでいる人がこうしたことばに触れて少しでも楽になってくれれば、それだけでもこの回は大成功だったと言えると思いますけどね。

これまでわたしはいろんな人に会ってきました。中には、自分と異なるセクシュアリティを持っているように見える人のことを気にする人もいましたよ。乗り越えてくださいよ! 何をそんなに気にしてるんです? あなたと違うセクシュアリティの人たちは、別にあなたとセックスしようとしているわけじゃないんです。たぶん、いろんな理由があってね。だから乗り越えて、前に進みましょうよ。ありがとう。

For those of you out there--And I've met you. --who may be...concerned about people who don't seem to share your sexuality, just get over it, will you?! What do you care? Those people--Those people are not gonna try to have sex with you. For more than one reason. So, let's just get over it and move on. Thank you.

*1:ここの訳詞は、Netflixの日本語字幕からの引用です。