石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

ケヴィン・ハートがアカデミー賞司会降板 原因は過去のホモフォビック発言

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(2019年2月4日追記)Vultureが、ケヴィン・ハートは本人の主張とはうらはらに、オスカー司会を降板した2019日12月7日以前に過去のホモフォビック発言について謝罪したことはないとする調査結果を発表しています。(追記ここまで)

米国のコメディアンで俳優のケヴィン・ハート(Kevin Hart)が、第91回アカデミー賞司会を辞退しました。原因は過去のホモフォビックな発言の数々。だいたいの経緯は上記リンク先の日本語記事でわかるかと思います。

2019年アカデミー賞司会、内定俳優が辞退 同性愛嫌悪ツイート問題で - BBCニュース

ただ、このBBCの記事も含めて日本語圏での報道はあまり詳しいとは言えない感じ。その上、メディアによっては怪しい訳や事実誤認によって「ケヴィンは謝っていたのにわざわざ過去ツイートを掘り起こされて降板させられた! ケヴィンかわいそう!」みたいないかにも平均的な日本人に好まれそうなストーリーを流布させようとしているかのような印象も受けました。これはちょっと目に余ると思ったので、もうちょっと詳しく「何があって、何が問題とされ、『謝罪』が出たのはいつなのか」を以下にまとめてみます。

ケヴィン・ハートは過去にどんな発言をしたのか

ツイートだけが理由で批判されたわけじゃないんです。スタンダップコミックや、そのあとのインタビューや映画プロモーションツアーなどでの発言などにも問題があったと The Guardianが報じています。以下にいくつか引用して訳します。

2010年のスタンダップコミックでの発言

俺がもっとも恐れていることのひとつは、息子が大きくなってゲイになること。そりゃあ怖いわ。言っとくが俺はホモフォビックじゃないよ。ゲイの人たちには何の反感も持ってないし、ご多幸を祈ってる。好きにしてくれ。でも俺は、異性愛者の男なんだから、もし自分の息子がゲイになるのを阻止できるんならそうするよ。ただ、それはそれとして、息子の初めてのゲイな瞬間を俺が操作できるのかどうかはわからない。どんなガキにもゲイな瞬間はある。でもその瞬間が来たら、つぼみのうちに摘み取らなきゃ!

One of my biggest fears is my son growing up and being gay. That’s a fear. Keep in mind, I’m not homophobic, I have nothing against gay people, be happy. Do what you want to do. But me, being a heterosexual male, if I can prevent my son from being gay, I will. Now with that being said, I don’t know if I handled my son’s first gay moment correctly. Every kid has a gay moment but when it happens, you’ve got to nip it in the bud!

2009年~2011年のTwitterでの発言

上で紹介した The Guardianの記事を書いたベンジャミン・リー(Benjamin Lee)氏は、2018年12月6日、以下のツイートにケヴィン・ハートの過去ツイートの画像を載せ、「ケヴィンはいつ昔のツイートを消し始めるんだろうと思っている」とつぶやいています。リー氏が言っていることが正しいのなら、少なくとも12月6日まで、これらのツイートはケヴィン・ハートの公式アカウントから世界に向かって発信されていたと考えられます。

上記ツイートの添付画像より、ケヴィンの2011年1月11日のツイート訳:

おい、もし俺の息子が家に帰ってきて、娘の人形の家で遊ぼうとしたら、俺はそいつを息子の頭に叩きつけて壊して、「やめろ、それはゲイだ」って口に出して言うよ。

Yo if my son comes home & try's 2 play with my daughters doll house I'm going 2 break it over his head & say n my voice "stop that's gay"

(注:日本語のメディアで、"break it over his head"の部分を『頭の上で壊す』と訳しているものを見かけましたが、誤訳だと思います。英語でbreak sth on one's headと言えば、以下の動画みたいな動作のことでしょ。物を頭にぶつけて壊すんだよ)

続き。同2010年1月20日のツイート訳:

なんで@DamianDWのプロフ写真はAIDSのためのゲイの看板っぽいんだ……ドッカーン、おれ今夜炎上する

Why does@DamianDW profile pic look like a gay bill board for AIDS.........Booom, I'm on fire tonight

同2009年7月22日のツイート訳:

なんで@wayne215は俺の写真をあんなにたくさん電話に入れてるんだよ?おまえ何なんだよ、小柄な黒人男の写真を一日中撮ってるデブ釜とかか?

Why does @wayne215 have so many pictures of me in his phone!!! What ru some type of FAT FAG that takes pic of small black men all day?

同2009年7月18日のツイート訳:

@dwadeofficialはこういう風に質問すべきだ、「ワイシャツを着るとき汗をかく『ゲイの』男は何人いるのか」 男らしい男は汗をかかないからな 爆笑 p.s ホモ野郎

@dwadeofficial u should ask the question like this, how many "gay"men sweat when they wear dress shirts because real men don't lmao p.s fag

これらの発言について「謝罪済み」だったのか?

2015年のインタビューでは

2015年のRolling Stoneでのインタビューで上記のスタンダップコミックでの発言について聞かれたケヴィンは、「今だったらあのジョークは言わない。あれを言ったときには時代が今ほどセンシティヴじゃなかった。人間は別にたいしたことじゃないことで大騒ぎするのが大好きなんだと思う」と話しています。これは「謝罪」じゃないですね。

最近のSNSでは

2018年12月6日15:53 - 15:58のツイート

訳:

今日うちの子供たちから電話で最高にすばらしい質問をされた。「パパ、どうしてインターネットでパパのことを言われて怒らないの」って言われたんだ。俺の答えは、「パパはそういうのは全然見てないんだ、幸せでいることと、おまえたちふたりを愛することで忙しいから」

I was asked the most amazing question from my kids today on the phone....they said "Dad why don't you get mad when people talk about you on the internet" ...my answer was "I never see that stuff because I'm to busy being happy & loving you 2"

それから子供たちに、怒ってる人たちが大好きな場所から遠くにいると、怒ってる人たちが何を言っているのか知るのは難しいんだと説明した。怒ってる人たちはインターネットが大好きなんだ……だからインターネットは必要なときだけ使うようにしろ、あとは人生を楽しむんだと言った。


I then explained to them that it's hard to know what angry things people are saying when you stay away from the places that angry people love. I said angry people love the internet... so use it only when necessary and spend the rest of ur time enjoying life.

これも謝罪ではないですね。

2018年12月7日(8:21頃?*1)のInstagram動画

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Stop looking for reasons to be negative...Stop searching for reasons to be angry....I swear I wish you guys could see/feel/understand the mental place that I am in. I am truly happy people....there is nothing that you can do to change that...NOTHING. I work hard on a daily basis to spread positivity to all....with that being said. If u want to search my history or past and anger yourselves with what u find that is fine with me. I’m almost 40 years old and I’m in love with the man that I am becoming. You LIVE and YOU LEARN & YOU GROW & YOU MATURE. I live to Love....Please take your negative energy and put it into something constructive. Please....What’s understood should never have to be said. I LOVE EVERYBODY.....ONCE AGAIN EVERYBODY. If you choose to not believe me then that’s on you....Have a beautiful day

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動画内の発言抜粋:

この世界は超イカレたもんになりつつある。俺はそのイカレ具合のせいでイライラしたり腹を立てたりするつもりはない。

Our world is becoming beyond crazy. I'm not going to let the craziness frustrate or anger me.

あのな、俺はもうじき40歳だ。もしあんたらが人間は年とともに変化し、成長し、発達するってことを信じていないのなら、何を言っていいのかわからん。人間をいつも自分の過去を正当化したり説明したりしなきゃいけないような立場に置いておきたいのなら、自分その立場に置いとけよ。俺を選ぶのは間違いだ。

Guys, I’m almost 40 years old. If you don’t believe that people change, grow, evolve as they get older, I don’t know what to tell you. If you want to hold people in a position where they always have to justify or explain their past, then do you. I’m the wrong guy, man.

やっぱり「謝罪」はしてませんね。要するに、(1)自分が批判されているのは世界がおかしいからだ、(2)年をとったので過去のやらかしは自動的にチャラにしてもらっていいはずだと主張しているだけ。

2018年12月7日(12:31頃?*2)のInstagram動画

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I know who I am & so do the people closest to me. #LiveLoveLaugh

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ついさっきアカデミーから電話があって、その電話は基本的にこんなことを言ってた。「ケヴィン、昔のツイートのことを謝罪しろ、でないとこちらは諦めて別の司会を探さなきゃならなくなる」。2009年と2010年のツイートの話だ。俺はやめた、やめといた、謝罪するのを。なぜかというと、これについては今までに何回か言及しているからだ。この話が持ち上がったのはこれが初めてじゃない。これまでにも話はした。何が正しくて何が間違ってるのか話してきた。昔の自分と今の自分の違いも話した。もうやったんだ。

I just got a call from the academy and that call basically said, 'Kevin, apologize for your tweets of old or we're going to have to move on and find another host.' They're talking about the tweets from 2009, 2010. I passed, I passed on the apology. The reason why I passed is I've addressed it several times. That’s not the first time this has come up. I've addressed it. I’ve spoken on it. I've said where the rights and wrongs were. I've said who I am now versus who I was then. I've done it.

こちらも謝罪じゃないですね。ひょっとしたら日本の一部メディアが、ケヴィンはとっくの昔に謝っていたのに今もまだ非難されているのだーひどいひどいーみたいな論調を張ろうとしているのは、この動画の「今までに何回か言及している(I've addressed it several times.)」の部分を聞き間違えたか、ものすごく好意的に「この"address"というのは謝罪のことに違いない!!」と拡大解釈しまくったかのどちらかなのかもしれないと思います。

2018年12月7日14:01のツイート

訳:

今年のオスカーの司会から降板する選択をしました……降板の理由は、多くの才能あるすばらしいアーティストたちによって祝われるべき夜の妨げにはなりたくないからです。過去のわたしの心ない発言について、LGBTQコミュニティに対し、心から謝罪します。

I have made the choice to step down from hosting this year's Oscar's....this is because I do not want to be a distraction on a night that should be celebrated by so many amazing talented artists. I sincerely apologize to the LGBTQ community for my insensitive words from my past.

ここに至ってようやく謝罪発言が出てきました。今回、このエントリを書くにあたって、Googleの期間指定検索でこれ以前にケヴィンが過去のホモフォビックな発言について何らかの謝罪をしていないかどうか調べたんですけど、これ以外の謝罪は少なくとも自分には見つけられませんでした。

ケヴィンの謝罪はどう評価されているのか

INTOの以下の記事で、黒人レズビアンのライターのKinsey Clarkeさんが「不誠実な謝罪」と言い切ってますな。

For Black Queers, Kevin Hart's Insincere Apology Isn't Surprising

Clarkeさんによればケヴィン・ハートが過去にしたようなホモフォビックな発言はシスヘテロの黒人男性には珍しくないもので、これはハート個人の問題ではなく、もっと深いところに根があるのだとのこと。そもそもブラックカルチャーの中にホモフォビックな会話が蔓延していて、それが小さな男の子に受け継がれていくという悪循環があるとClarkeさんは指摘しています。実際、黒人男性コメディアンの世界でも、エディー・マーフィー(Eddie Murphy)もバーニー・マック(Bernie Mac)もマーティン・ローレンス(Martin Lawrence)も同性愛者を笑いのネタにしてきたという系譜があり、この一連の騒ぎでハートの考えが変わったかどうかはわからないというのがClarkeさんの意見。ああ、これには同意だわ。あと、以下のくだりにも首肯。

要するに、もちろんハートと彼のファンたちはハートは犠牲者だと思い、彼に敬意と、LGBTQの人々に関する過去発言についての誠実な謝罪を求める人たちのことは「インターネットの荒らし」だと思っている。

In all of this, of course, Hart and his fans find him to be the victim and the people who demand respect and a sincere apology for his past comments about LGBTQ people are “internet trolls.”

たぶん、日本の一部のメディアが広めたがっているのもこういう見解なんじゃないかと。

個人的雑感など

長くなってきたので、以下、箇条書きで。

*1:本人がTwitterでこのInstagramポストを告知した時間が8:21でした。

*2:本人がTwitterでこのInstagramポストを告知した時間が12:31でした。