石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

PCゲーム『アトラク=ナクア』(アリスソフト)レビュー

アトラク=ナクア 廉価版アトラク=ナクア 廉価版

アリスソフト 2000-09-14
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和風伝奇レズゲーの金字塔

シリアスで、昏くて、哀しくて、切ない。
これを「エロゲー」と定義していいものか。
むしろこれは「文学」ではないのか。
蟲惑的なキャラクター。息をもつかせぬ展開。これしかなかったのかと何度も自問し、これしかなかったのだと受け入れるしかない結末。

参りました。最大級の傑作です。

初音という蜘蛛

このゲームの一番の魅力は、初音というキャラクターでしょう。ひとの血肉と精気を喰らって生きる女郎蜘蛛の化身、それが初音です。美貌の下にひそむ残酷さと圧倒的な強さ、優雅な物腰、そして時おり垣間見せる優しさが甘い毒のようにプレイヤーを魅了します。

ちなみに、主に女を犯すんですよ、この女郎蜘蛛は。ある時は優しく、ある時は残虐に。男と交わらないわけではないのですが、精液にまみれるような汚れ役は他のキャラクターにまかせています。それが『アトラク=ナクア』をレズゲーたらしめているわけです。

そんな陵辱系のゲームは嫌だ、という人もいるでしょう。けれど、このゲームはそれだけではないのです。「愛」などという陳腐な言葉では形容しきれないほどの想いが、胸に迫ってきます。多くは語りません。ただ、やってみてください。

シナリオの巧さ

シナリオはとにかく秀逸。普通ゲームというと、どんなに優れたストーリーのものでも、フラグ立てのための単純作業と化してしまうダレ場があるものなのですが、『アトラク=ナクア』にはそれがほとんどありません。純粋に話の続きが知りたくて憑かれたようにクリックし続けてしまったなんて初めてです。ちなみに伏線の張り巡らせ方も見事。後半のどんでん返しに胸を突かれ、エンディングでは呆然と画面を眺めながらへたりこんでしまいました。

このゲームの文章表現の上手さはあちこちでさんざん語られているので、ここでは五感に訴えかける描写と対句法の巧みさのみをあげておきます。

五感に訴えかける描写

いくつか代表的な例を抜き書きしてみました。

視覚

黒は女の髪、白は女の肌。

聴覚

目眩がするほど澄んだ声色。

嗅覚

(かなこを抱き寄せるシーンで) 「匂い袋を思わせる典雅な香り、それが初音の体臭だ」

触覚

初音は小さく笑って、かなこのおさげを手に取った。 柔らかな感触を掌で味わい、言う。

味覚

女は……初音は、 娘に触れた指を舐めて低く笑った。

このようにユーザの感覚にダイレクトに訴えかける表現が巧みに織り交ぜられているため、読めば読むほど、初音というキャラクターが鮮やかに脳裏に浮かびます。このゲームにボイスはないのですが、プレイヤーは初音の声までがはっきりと聞こえるような錯覚に陥るはずです。いや、むしろ初音に抱きすくめられる感覚まで、皮膚に感じてしまうかもしれません。

対句法

対句法を多様したリズム感の良い文体は中世の軍記物もかくやという引き締まっており、緊迫感を引き立てます。特に終章の戦闘場面など、鳥肌が立つほどでした。

音楽

文章だけでなく、BGMがまたいいんだ。アコースティックギターやヴァイオリンを多用した切ない曲の数々が、終始ゲームを盛り立てます。特に、最終章の開幕とともに初めて披露される『アトラク=ナクア三部作』のかっこよさには息が止まりそうになりました。ゲームをクリアするとMUSIC MODEでBGMが鑑賞できるのですが、このためだけに定価2800円(廉価版価格)を払ってもまったく惜しくないとさえ思います。

濡れ場について

さて、一応18禁ゲームなので、交わりのシーンについても書いておきましょうか。身も蓋もない言い方をすると、これ、いわゆる「抜きゲー」にはなり得ないような気がします。尺もかなり短いことですし。でも、いやらしくないのかと言われたら、話は別です。特に初音とかなこのセックス中の台詞なんて、とことん淫靡ですよ。

まとめ

初音というたぐいまれなキャラクタに最高のシナリオと迫力あるBGMが加わって完成した、素晴らしいゲームだと思います。甘くてダークなレズゲーを求めている方や、切なさのあまり泣かされてみたい方に特におすすめです。