石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

映画『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』感想

少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録【劇場版】 [DVD]

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うかつに観ると萌え死にます

よくこんなもの劇場で一般公開したわねー!?(褒めてる)

とにかくスゴい作品だわ。あまりに濃くてあまりにレヅレヅしいので、見終わってしばらく肩で息をしてしまったほど。うかつに観ると萌え死ぬわよ、これ! あたしはTVシリーズ未見で免疫がなかったため、最初から最後まで驚きっぱなしでした。

ちなみに、レズビアニズムはこの作品の主題ではありません。テーマはあくまで他にあり、同性愛は愛の当然の一形態として扱われているのですが、かえってそれがいい感じ。百合カップルの関係性については直接的な性愛表現は無く、キスシーンすらシルエットで描かれていて、何もかも暗示的です。その寸止め感というか、真剣を眉間につきつけたまま止められているようなじりじりした感覚がとにかく強烈です。すげえええ。

「わかるやつだけついてこい」な世界

作品全体のトーンは、「うる星やつら2・ビューティフル・ドリーマー」にフィリップ・K・ディックとベルばらを混ぜてやおいテイストを大量に突っ込んだような感じ。親切な説明などいっさい無しで、「わかるやつだけついてこい!」という割り切りっぷりがいっそすがすがしいほど。「一から百まで説明してくれないと満足いかない」という人にとってはトンデモ映画、深読みが好きな人にとっては噛めば噛むほどおいしいスルメのような映画、という風に評価がまっぷたつに分かれそうな気がします。

リアリズムからの脱却

物語は20世紀的リアリズムから脱却し、むしろ神話や伝説に近いような不思議な世界観に根をおろしています。女の子の胸から剣が生えようと、主人公が突然車に変身しようと、「どうして?」などという野暮なツッコミを入れてはいけません。これは、リアリティーに縛られたお茶の間ドラマではないのですから。

神話の世界では、同性愛も近親相姦も珍しいことではありません。それと同じで、この作品の中ではアンシーとウテナがキスしようと、冬芽が義父に犯されようと、それ自体はたいしたことではないのです。いちいち「女同士なのにこんなイケナイこと」などと悩まない姿勢はクールで、これを見てしまうと、たかだか同級生との恋愛ごっこにキャーキャー言ってる百合ものなんかがアホらしく思えてきます。

淫靡な演出

キャラクターについて言うと、アンシーがとにかく淫靡で良かった。絵も声も、演技の間がすごくいいんです。これはアンシー以外のキャラもそうなんだけど、台詞で説明することなく演技で見せるという方針であるらしく、 何気ない動作や表情がたいそう深いです。日本のアニメは凄い凄いと言われていますが、こういうところが凄いのでしょうね、たぶん。

メタファーについて

ついでに英語圏でのウテナ批評を読んでみると、"metaphor"、"metaphorical"という単語がよく出てくるのに気づきます。確かにこの映画は暗喩の連続です。極端な話、ウテナやアンシーなどのメインキャラクターでさえ、人物というより何らかの概念の象徴に見えてしまうほどです。

ウテナとアンシーの関係は絶対友情に昇華しないし、大人になってから「思春期の擬似恋愛だった」として片付けられることもあり得ません。かと言ってPC百合ゲー『リトル・ウイッチ・レネット』の某キャラのようにラブラブレヅ家庭を築いて行ってらっしゃいのキスをしたりするとも思えません。「ウテナ」のキャラクターたちは、何かそういう人間くさいところに身を置きそうもない気がします。全員が全員、人間というよりは何かの象徴、メタファーなわけです。

テーマについて

さて、では、壮大にして緻密なメタファーの乱舞するこの作品のテーマは何なのでしょう。これは、ウテナの次の台詞が全てを語っていると思います。

「姫宮、外へ! 外へ出よう!」

これだけ。

「殻を破って外へ出ろ」これがテーマです。

何が「殻」で何が「外」なのか、そこまでをこの作品は語りません。あとは、見たものがそれぞれ考えろということなのでしょう。DVDで見てよかったです。映画館まで足を運んでいたら、その後2度3度とまた見に通ってじーっと考え込んでしまったはず。そういう麻薬的なものが、この映画にはあります。

未見の方は一度レンタルしてご覧になると良いと思います。

ああ、それにしてもよくこんな作品を劇場で一般公開(以下ループになってしまうので割愛)。

補足(TVシリーズ鑑賞後、再び映画版を観た感想)

この映画、英語タイトルのAdlescence of Utenaっていうのが全てを物語ってるんですね。なんだ、そういうことだったのか。「外へ出よう」というウテナの言葉の意味も、TV版の後だとよくわかりました。くどくどしく書くと野暮になるのでやめておきますが、TVシリーズ未見の方はぜひそちらもご覧になることをおすすめしておきます。