- 作者: 犬上すくね
- 出版社/メーカー: 大都社
- 発売日: 2003/04
- メディア: コミック
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素朴な絵柄の優しい短編集(百合話あり)
全13編中、1編(『My Little World』)だけが百合。同級生「美奈」との実らなかった初恋をまだひきずっているレズビアンの中山さんと、美奈とつきあっている男子の時任くんの、一種の三角関係のお話です。時任くんの優しさや偏見のなさがとてもいいし、ホモフォビアがなければ即ハッピーだとか、彼女ができればめでたしめでたしだとかいう陳腐な枠組みを軽やかに越えた話であるところが心憎いと思いました。素朴な絵柄も、お話全体に漂う静かで甘酸っぱい空気に合っていてよかったです。
お話の深さがリアル
百合/レズビアンものというと、「無事偏見を乗り越えられました、彼女もできました、めでたしめでたし」ってところであっさり思考停止して終わってしまう作品も多いのですが、「My Little World」ではもうちょっと突っ込んだところまで描かれています。中山さんは現在彼女がいて幸せに過ごしているし、同性が好きな自分のことも肯定できているけれど、それでも彼女の心には過去恋愛のつらさが棘のようにちくんと刺さっているんです。そこのところがすごくリアルだし、深くていいなあと思いました。
ひねくれ方もリアル
中山さんが時任くんに対してこんな風にひねくれてみせる(そうしてみせるだけで、本心からこう思ってるわけじゃないんですけど)ところ(p103)がすごーくレズビアンっぽくて面白かったです。そーよねェ さっさと入籍して晴れて国家が認めたつがいになれば あたしみたいな変態は手も足も出せないもん
時任くんもいいよ
単に同性愛に偏見がないだけでなく、中山さんのことを対等なライバルとして認めてくれているんですね彼は。そのフェアな視線が、とてもよかった。時任くんというキャラのおかげで、この作品は単なる恋愛ものの枠を越えて、中山さんと時任くんの友情物語としても読めるようになっていると思います。
まとめ
素朴で可愛い絵柄ながら、恋の痛みや苦みをきっちり描いた良いお話でした。友情物語としてもナイス。ちなみに希望の持てるラストシーンもいいですよ。