- 作者: 小玉ユキ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/01/26
- メディア: コミック
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いとおしい物語たち
やられた……。♀♀要素のある短編「波の上の月」もしみじみとよかったし、それ以外の作品もどれも胸の奥がきゅーんとなってしまうようないとおしい物語たちで、読んでいて切なくなるやらほんわかするやらで大変でした。人魚が当たり前のようにそのへんの海や川にいる世界、という独特な設定も、丁寧で躍動感のある絵も、とてもとても魅力的。「この時代に生まれてこの作品を読めてよかったー!」と、今、幸福感で身もだえしているところです。
「波の上の月」について
学生時代に同居していたノンケの女友達「京子」に片想いしている主人公の「さき」と、同じように同性に恋をしている人魚の男の子の心の交流を描いた話。なんというか……いいなあ! 切ないのに自己陶酔の香りがなくて、美しいのに嘘くさくなくて。晴れ晴れとした寂しさがあるラストも大好き。萌え狙いなだけの薄っぺらい百合や、古くさい「背徳感」を煽るだけの百合にはもう飽きたとお嘆きの貴兄/貴女は、こういうのを読まれるとよろしいかと思います。
その他の収録作について
「波の上の月」以外の作品について、簡単な感想など。
- 「光の海」
- 坊主とサーフィンと人魚、という三題噺でここまでしんみりと美しいお話が作れるだなんて。もうこの一本だけで作品世界にメロメロです。
- 「川面のファミリア」
- ひとことも喋らない「川人魚」が登場するお話。人魚もそうだけど、小学生の女の子「文」の表情が最高。言葉やら何やらの人間が作り上げたシステムなんて、実はすごくしょーもないものなのかも、としみじみしました。
- 「さよならスパンコール」
- ホットパンツに憧れるギャル人魚の話。クライマックスの見開きページに息を飲み、まるまる5分ぐらい見とれてしまいました。その後のVサインにも。くーっ。この画力と構成力で「初めての単行本」だなんて、どんなものすごい新人さんなんですかこの作者さん。
- 「水の国の住人」
- 老いて引退した海女が語る人魚の想い出が、最後に現実とリンクするお話。最後の最後にこれを持ってくるところが渋くて心憎いです。
人魚について
単にファンタジックなだけの存在ではなく、
なんてことをサワヤカに言っちゃうバカ人魚がフツーにいたりするところが楽しかったです。交尾もすれば恋もする、人を恐れもすれば助けもする、ってあたりが人間のようでもあり、イルカのようでもあり。また、高い画力に支えられた彼ら/彼女らのジャンプシーンは必見。ナショナルジオグラフィックのすっごいネイチャーフォトでも見ているかのような、「うわー! うわー! うわー!」という気分になりました。「俺のちんちん見せてあげよっか」
まとめ
どの作品もすっごく良かったです。もちろん、お目当ての♀♀作品(♂♂要素もあり)「波の上の月」も。全部読み終わって、極上のワインを飲んでほわんと酔っぱらったときのような幸福な気持ちになりました。百合がどうしたこうしたとかそういうところを越えて、万人におすすめしたい素敵な漫画でございました。うおー。(まだ酔っぱらってる)