- 作者: 高瀬彼方,西村博之
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カラミティナイト〈2〉 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)
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カラミティナイト〈3〉 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)
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友情百合ストーリー。やや残念なところも
破滅をめぐる戦いに巻き込まれた少年少女の戦いを描く友情百合SF。オーソドキシーながらもスリリングな1巻は面白かったし、2~3巻で主人公「智美」とその親友「優子」の絆が強調されるあたりも良かったです。が、その一方でこのふたりに「破局寸前の倦怠期カップルのような陰鬱な口喧嘩→依存し合って仲直り」というパターンがやたらと多い(特に2~3巻あたりで)ところはやや残念。また、「邪気眼」っぽい陳腐な設定の数々や、地の文に思わせぶりな言い回しが多すぎるところなどもマイナスだなと思いました。まだ完結していないシリーズなので、今後に期待です。
智美と優子の倦怠期カップル状態について
この作品を百合として読むのなら、主人公「智美」とその親友「優子」がメインカップルということになります。しかしこのふたり、友情なり愛情なりが盛り上がる以前の、ネガティブorヒステリックな口喧嘩の分量が多すぎるような気がするんです。
以下、智美と優子のネガティブ発言をいくつか拾ってみます。
「……何だかさ、結局昨日からずっと、智美が何を言いたかったのか、私にゃ全っ然分からなかったよ。そんなんだったら、もういいよ。言いたくないなら、聞かない。てゆうか、もうこんな電話だったら、かけてこないでくれる? マジ鬱陶しいから」
「ゆうちゃんが、そうやって私に優しくしてくれるのは、シャリエラの人形と同化してくれてるからなんでしょう……? 私が、ゆうちゃんに、優しくして欲しいって思ってるから、だから優しくしてくれるんでしょう……? 本当のゆうちゃんだったら、あんな事件の後で、こんな風に優しくしてくれないよ……!」
「ていうか、あの時、智美がすぐに、いつもの私じゃないって気づいてくれて、めちゃめちゃ感激してたのに……! 『本当の私じゃない』って、すぐに見破ってくれたから、だったら『本当の私』にも気づいてくれると思ったのに! でも結局、智美はあれからずっと、私がシャリエラだと思ってたんだ!? ああそうなんだ!? それじゃ、私が今まで言った言葉は全部ニセモノ扱いだったんですか!? ニセモノなんか無視しても平気ですか!? ニセモノが泣いても平気ですか!?」
「ゆうちゃんにも迷惑かけてばっかりだし、美由紀さんにも……もう、正体を知られちゃったから、きっと恨まれてるよ……。何だか私って、みんなを不幸にしてるだけだね……」
だいたいいつもこのような台詞で互いに突っかかったり自虐モードに陥ったりしてから、「支えてほしい」とか「守りたい」とかいう文脈で和解する、というというパターンが多いように思います。しかしこれって、友情を固めるというより、「破局寸前のぐだぐだなカップルが口喧嘩をした後、愛というより依存関係を再構築して落ち着く」という風景に見えてしまうんですよあたしには。もちろんネガティブ会話だって当然あっていいのですが、支える/支えられるという役割を越えた何かポジティブな気持ち(別に友情でもOK)の描写がもう少しあったらもっとよかったのにな、と想いました。
「邪気眼」っぽさについて
1巻pp134~135より
――黙れよ。
彼は苛立ちと共に、自分の体内に眠る、自分のモノにあらざる存在を内心で罵った。
(引用者中略)
「……あんまり俺に構わないほうが身のためだぞ。俺は厄介な奴に呪われてるんでね――それともお前、五人目になりたいのか?」
ううむ、みごとなまでに邪気眼。これはかなり人を選ぶなあ。
3巻戦闘シーンより(要約)
- 主人公、絶対絶命
- 主人公、突然甲冑に手を触れて「対攻性魔術防御展開……抗雷紋」とつぶやく
- ちなみにここまでの話で「対攻性ナントカ」とか「抗雷紋」とかの話はいっさい出ていない
- 敵、やられる。「ば、馬鹿な……!?」
こちらは邪気眼というより『リングにかけろ』ですね。一種の様式美と言えばそれまでですが、前後の脈絡なしにいきなりリンかけワールドに突入されても、読む方は困ってしまいます。読む方にも心の準備がいると思うんですよ、そういうのは。
スリルが陳腐さをしのいでくれればいいんですが……
たとえ設定がありきたりでも、その設定を使って読者を存分に楽しませてしまえるなら全然構わない、とは思うんですよ。実際、1巻においては、スリルあふれる展開が設定の陳腐さを大幅にしのぐことに成功していたと思います。が、上記の3巻戦闘シーンに至っては、大元の設定(体内にひそむなんちゃら)がありきたりな上に戦闘シーンもありきたりという、ありきたりの二重苦です。いったいこれをどう楽しめばいいのか、自分にはよくわかりませんでした。
思わせぶりな言い回しの多用
文章の区切れの部分で、「……後にして思えば、この時には全てが手遅れだった」「この時、○○は気づいていなかった。□□ということに……」「……だった。少なくとも、この時は」等々の思わせぶりな言い回しが何度も何度も使われていて、読んでいるとだんだん疲れてきます。一度や二度ならともかく、こうも多用されると、まるでCMのたびに「CMの後、とんでもないことが!!」と叫ぶTV番組を延々眺めているような気分になってしまいます。そんな小手先のテクニックより、内容で受け手を引っ張ってくれればいいのになあ。
まとめ
「オーソドックス」と「陳腐」の境目で揺れている友情百合作品だと思います。また、メインカップルのややドロドロした会話や、思わせぶりな文章が連発されるところなどは、人によって合う合わないがあるかもしれません。しかし1巻の面白さからすると、4巻以降でまた良い方に化ける可能性も否定できず、次巻が待たれるところです。