- 作者: CHI-RAN
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2007/12/18
- メディア: コミック
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ファンタジックな要素は多いけれど
一冊丸ごと百合漫画な短編集。作者様がカバー折り返しで「今回はF(ファンタジー)テイスト多めなので 好みが分かれるところなのでドキドキです」とおっしゃっている通り、超能力少女や異世界からの来訪者、夢がかなう不思議グッズなどのファンタジックな要素が多い一冊となっています。が、前作『少女美学』(一迅社)と同じく、女のコが女のコを「好き」と想う気持ちについてはしっかりと地に足がついた描写になっていますし、キスやセックスもちゃんと登場します。また、つまらない偏見を笑い飛ばす爽快さもあって、読んでいてとても楽しかったです。
各話のあらすじなど
- 「秘蜜少女」
- 相手の性感を捕獲してアクセサリーに封じ込めることができる超能力少女が登場する話。「直接触って欲しい」と願う主人公柚弓(ユユ)とのキスシーンあり。
- 「百合籠」
- 女のコが好きなのに告白する勇気がない茉織(まおり)。「貴女の恋人が入っている」という触れ込みの小さな籠を買うと、中から籠から出てきたのは、人形のように小さな少女「籠女」だった。
- 「プラネート・エメリス」
- 女のコの親友に片想い中の主人公結真(ゆま)のもとに、女性しか存在しない世界「ファム」からやってきた女のコ・エメが求婚。やがて体の関係に至った結真とエメだったが……?
- 「好きにさせないで」
- 学園一のプレイガールに見染められた主人公花来(かこ)。それまでの価値観をひっくり返され、「…好きにさせないで…」とドキドキ。
- 「D×DROPS」
- 舐めると夢がかなう七粒のドロップを手に入れた美姫(みき)。舐めてみると、毎晩、片思いの女のコ・唯(ゆい)とのデートやセックスの夢を見る。
- 「恋」
- 好きな女のコを目で追ってしまう主人公。この気持ちは、「変」なのか、「恋」なのか?
実に全6話中4話にファンタジー要素が登場。キラキラした綺麗目の絵柄とあいまって、これなら「あんまり現実的なガチ恋愛だと引く」って方にも入りやすいかもしれません。(逆に『ファンタジーっぽいノリはあんまり……』な方には向かない一冊かも)
こんなところがナイス
「好きにさせないで」には、主人公が同性から言い寄られて混乱し、その混乱状態を学園の皆から「箱入り」と呼ばれるというくだりがあります。以下、主人公が、自分が「箱入り」と呼ばれた理由を同級生に尋ねるシークエンス(pp96-97)。(※表記の都合上、原文の傍点部を強調文字に置き換えてあります)
同級生「(引用者注:箱入りとは)世間を知らない女のコってこと アナタ 男のコと恋愛して結婚+子供を生むのがフツーだと思ってるでしょ? なんのギモンもなく……」
(主人公、内心で独白「――てそれが普通でしょ?」)
同級生「でもそれは それだけが正しくて他は普通じゃないっていう環境の中で育てられたってことなの もし逆の環境で育てられてたら…アナタは男のコとの恋愛が正しいとは思わなかったはず…つまり世の中がコレが正しいという恋愛観の箱の中(カタチ)に入ったままの女のコってコト」
つまりこの学園においては、世に流通する「コレが正しい」という恋愛観を疑いもしない態度のことが「箱入り」と称されているわけですね。これだけキラキラしたファンタジーテイストの1冊に、こんな台詞がきちんと含まれていることに拍手。あと、この同級生の女のコの台詞で新しいなと思ったのは、偏見の持ち主を責めるのではなく、それ(偏見)が社会の恋愛観の枠組みのせいだと淡々と指摘している点です。すぐに「このホモフォーブ(同性愛嫌悪者)め!!」とか言って偏見の持ち主そのものに腹を立てちゃう自分も見習わねば、とちょっと反省しました。
ちなみにこの「好きにさせないで」で主人公を口説く揚羽(あげは)が、「男だったらよかったのに」と言われた後のこの台詞(pp100-102)もいいですね。
登場人物がこのようにさらりと己のレズビアニズムを肯定し切っていることに唸らされました。男だったら意味がないのよ 私は―女であることに誇りを持ってる 女として 女に愛されたいの 愛したいの そして触れ合いたい それが『私』だから
ちょっと残念な点
このへんはやや残念だったかなあ。
- 「秘蜜少女」冒頭の五姉妹の設定が生かされていないこと
- 柚弓以外はほとんど冒頭にしか登場せず、わざわざページを割いて全員紹介する意味がよくわかりませんでした。(ひょっとしたらこれは連作の第1話なんでしょうか?)
- 不思議キャラのほとんどがロリ少女なこと
- 籠女もエメもドロップ売りも低身長の少女キャラというのは、ちょっとワンパターンなのでは?
まとめ
ファンタジックな要素が多い一方で、同性愛へのつまらない偏見を笑い飛ばす爽快さとリアリティをも内包する一冊でした。いくつか残念な点(上記)がないでもないのですが、絵柄が好みに合う方ならトライする価値はじゅうぶんありです。