
- 出版社/メーカー: サクセス
- 発売日: 2008/05/15
- メディア: Video Game
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「仏造って魂入れず」ならぬ、「設定作ってシナリオ練らず(練れず)」な作品
本作『アオイシロ』は、コンシューマ百合ゲーの金字塔『アカイイト』の続編ということで多くの期待を集めた和風伝奇百合ゲー。しかしてその実態は、「仏造って魂入れず」ならぬ、「設定作ってシナリオ練らず(練れず)」な作品。よかった点ももちろんあるのですが、シナリオの破綻が手痛いダメージとなり、せっかくのよさを相殺してしまっています。さらにシステム面の不備もあり、女のコ同士の絆も『アカイイト』に比べてはるかに希薄と、前作には遠く及ばない作品となってしまっていると感じました。
1. シナリオが破綻
ボリュームの長大化にシナリオの質がともなっていないと思います。矛盾点やご都合主義的展開が多く見受けられ、また戦闘シーンの緊迫感も希薄でした。さらに、無駄に数だけ多いノーマル&バッドエンドの芸のなさが、ルートを探索しようという意欲をとことん削ぎまくってくれました。こんなことであれば、最初からもっと攻略キャラを減らし、EDももっともっと少なくしても良かったのではないかと思います。
1-a. 矛盾点の例
例1. 人の話を聞かない隻眼鬼
隻眼鬼「おぬし剣鬼の血縁か――」
(カヤルート『◇双鬼相打つ』より)
と言った直後に、
梢子「私は引かない! 夏姉さんを! 夏ちゃんを! 二度と私の目の前で死なせるものか!」
隻眼鬼「おぬし、剣鬼の知り合いだったか」
梢子「肉親よ! 家族よ! 夏姉さんは私の大切な人よ!」
(カヤルート『◇双鬼相打つ』より)
隻眼鬼は前向性健忘か何かですか?
例2. 瞬間移動するコハクさん
そしてしばらく休んだコハクさんは、<<剣>>を手にした夏姉さんを追って卯良島へ――
ナミ「梢子ちゃん、傷、見せてください」
ナミ「わたし、それ、治せるみたい」
(中略:卯奈咲でナミが梢子の傷を治す様子が描かれる)
コハク(突然ナミの横に出現)「ほう、便利なものだな」
(
コハクルート『渦中の静けさ」→「運命の分岐点』より※2008年11月24日訂正:グランドルート『◇カヤとコハク』→『◇運命の分岐点』より)
コハクは卯良島に渡ったはずなのに、なぜここの会話に割り込めるの? ちなみにこのシーンのコハクは立ち絵まできちんと存在し、律儀にナミの横に立って喋っています。
例3. 呑気すぎる梢子
「逢魔ヶ時――水際の砦――」からの流れなんですが、海であんなことがあった日の晩にまたのこのこ海辺に出かけてバーベキューというのはすごく変。怖くないんですか。それとも梢子も前向性健忘?
例4. 「海流が危険」設定はどこ行った
「気がつくと無事浜辺に」パターンが多すぎ。そんなに安全な海なら泳いで渡れ。
例5. なぜ身体に戻る?
とあるルートの祭殿で、あの人がわざわざ身体に戻る理由が理解不能。贄として殺してくれと言わんばかりの行為だと思うんですが。「この身体じゃないと、声が届きにくいと思ったから……」という説明台詞こそありますが、これまでこのキャラは会話に何ひとつ不自由していないため、つじつまが合いません。
例6. アレの向こうはどんな世界
○の向こうは人間には耐えられないほど恐ろしい禍神の瘴気に満ち満ちた世界だったんじゃありませんでしたっけ。でも、とあるルートだと、キャラたちは全員進んで○の向こうに入り込み、元気いっぱいに走っています。全然恐ろしくないじゃん。
1-b. ご都合主義いろいろ
「いちおう矛盾はしていないんだけど、あまりにご都合主義的」という展開が、特にグランドエンドへのルート後半に多かったと思います。ここまでのシナリオの綻びをどうにかしようという意図はわかるのですが、あれではゲームというよりキャラたちによる「第1回チキチキアオイシロ言い訳大会」。デウスエクスマキナが多すぎて、お話の説得力が損なわれてしまっているという印象が否めません。例を挙げるとこんな感じです。
- 椿の森で遊んでいた相手がはっきりしなかった理由が唐突かつむちゃくちゃすぎます。こんな終盤になってから、いきなり成田美名子の某漫画みたいな設定を持ってこられましても。
- ○○が一度でも○○の○を訪れていれば、『アオイシロ』のお話全体が成立しなかったということはわかります。でも、何もわざわざそれを露悪的にさらけ出してからいっしょうけんめい合理化せんでも。黙って「これはこういうキャラだし、こういう話なんだ!」と開き直っておけばよかったのに。
- ○○○を使って海を渡れるのなら、梢子が○○を○られて海に落ちた時に最初からそうすればよかったのでは?
- 一介の女子高生である梢子が、大詰めで突然<<剣>>について滔々と語り出すことに違和感が。要するに「かの○○○○が○○より強奪した云々」のくだりのことなのですが、いったい、どこでそんな知識を。そこまで何もかも○○の記憶を取り戻したなんて描写ありましたっけ?
1-c. 冗長な会話
汀ルートでの戦闘シーンにおける梢子と汀の会話が典型的なのですが、戦闘中にキャラが冗長な会話を繰り広げ、緊迫感が台無しになってしまうのはどうかと。ふたりは強大な(はずの)敵を前にしてのんきにダラダラとお喋りを続け、ご丁寧にもその間敵はほとんど攻撃せずにボーッと待ってくれています(参照:会話例1、2)。もはや迫力もスピード感もサスペンスもゼロ。
試しにこの会話例1、2を実際に口に出して喋ったら何秒ぐらいかかるか計算してみました。1分間に漢字仮名交じりで400字程度喋るとすると、会話例1では約50秒、2では約1分です。ちなみにこれらの会話中、敵の攻撃は会話例2の方で1回程度あるだけ。どんだけどんくさい敵ですか。戦いの緊迫感も怖さも、まるで伝わってきませんよこれでは。特に2の方なんて、恐ろしい(はずの)敵とのバトル中にこんな「調べ物発表会」的うんちく語りをおっぱじめる必要はどこにあるのかと悩んでしまいましたよ。
1-d. ノーマルエンド&バッドエンドの芸のなさ
『アカイイト』だと「赤い維斗」とか「鬼切りの鬼」とか、トゥルーエンドじゃなくても非常に印象深いエンディングがたくさんあったと思うんですよ。小粒のバッドエンドですら、「シマイ」みたいなひねりを効かせたものがちゃんと入っていて、おかげで分岐潰しにも夢中になれた記憶があります。
ところが『アオイシロ』は、トゥルーエンドと帰還エンド以外はほとんどすべて、誰かを唐突に殺して終わるだけ。その唐突さときたら、大昔に流行ったサイコロ転がして遊ぶゲームブックの「宝箱を開けた。宝箱はトラップだった! あなたは死にました」レベル。あるいは、ちょっとした段差から落ちただけで即死するスペランカーレベル。つまらん。つーまーらーん!
(2008年6月1日追記:『アオイシロ』のエンディングを一覧表にして、もう少し詳しい考察を付け加えてみました。よろしければこちらもどうぞ。→※ネタバレ※『アオイシロ』エンディング一覧と考察 - 石壁に百合の花咲く)
2. システム面の不備
スキップがほとんど使い物になりません。重いのはまだ我慢できるのですが(ジャンプを使う手もありますし)、「あるルートで既読になったテキストが、別ルートだと未読扱いになる」「スキップ終了時のアラーム&振動がまともに動作しない」というのはたいへん不便でした。
ルート分岐の無意味な煩雑さも特筆ものです。トゥルーエンドを見た後でもアホみたいにしつこく選択肢総当たり(しかも、くだんの芸のないノーマル&バッドエンドを延々と見せつけられながら)しないと別ルートの封印が解けないというのは、勘弁してほしかったです。あたしは物語が読みたいんであって、こんな「作業」(または『苦行』)に明け暮れたいわけではありません。
3. 絆が希薄
キス絵や一見3Pかと見まごうような微エロ絵、胸にくちづけての吸血など、吸血シーン「だけ」を見れば、梢子とヒロインたちとの密着度は前作をはるかにしのいでいます。けれど、それだけ。そこに至るまでの女のコ同士の「絆」は、むしろ前作より希薄なのではないかと思います。
『アカイイト』においては、「たいせつなひとが いなくなっていまった」というキーフレーズを効果的に使用した上で、ある人がある人にとって『なぜ』、『どのように』大切なのかが緻密に描かれていたと思います。だからこそ、主人公とヒロインの指きりのシーンひとつ取っても地獄のように色っぽかったわけで。
ところが『アオイシロ』においては、ほとんどのルートにおいて、主人公・梢子とヒロインの絆はたいへん薄口です。単に身体の弱い後輩だからとか、外見が美しいから、憧れのお姉さんだからなどという理由だけで、人はこんなにほいほいキスしたり血を吸わせたりするものでしょうか。いくら物理的に唇を合わせようと首筋を吸われようと、そこに強い想いがなければ、ただの献血シーンにしか見えないと思うんですけど。
言い換えるならこれは、キャラの見せ方の不手際と言えるかもしれません。『アオイシロ』では、ほとんどのキャラについて、「堅物の剣道部主将」「体の弱い後輩」「美少女」などの設定がぽんと存在するだけで、相手を魅了するような決定的な言動(単なる顔の美しさとかじゃなくて、言動)が少ないと思うんですよ。惚れる/惚れさせるシークエンスが希薄なまま、予定調和的に行為の上だけねちっこく絡まれても、そこに「絆」や「百合っぽさ」があるとはあたしにはあまり思えませんでした。
4. よかったところがないわけじゃない
以下の点はとてもよかったと思います。
- 絵
- 綺麗でした。大拍手。
- 女のコ同士の関係に偏見がまったくないところ
- このリベラルさはサクセスの宝。
- 歴史上の人物、伝承、史実などをうまく取りこんであるところ
- これについては前作より濃いぐらいだったのではないかと。ある人を見て落語の「青菜」を連想したあたしとしては、その連想が大当たりで嬉しかったです。
- 人物名の漢字がわかるとともに、その人の正体がわかる仕掛け
- しかも、最初「この人がこれかな?」と思っていたのが実はぜんぜん違っていたりして、あの「やられたー!」という感覚がとても楽しかったです。
- 逆に漢字で書かれていた名前のカタカナ書きがわかったとたんに正体が判明する人もいたりして、新鮮でした。
- あるルートでの謎が、別のルートで解ける快感
- たとえば、汀ルートでの「援軍」の意味が、コハクルートになってわかったりとか。あれは気持ちいいですよね。
- 漫画『アオイシロ―青い城の円舞曲―』を読んだ人にだけわかる、百子の反応の深さ
- 百子の台詞だけでなく、ちょっとした表情にも実はしっかり意味があるんですよね。保美のとあるエンディングの悲痛さには魂を揺さぶられました。
- なんだかんだ言って名台詞が多いこと
- 「もう、お父さんお母さんで入れてくればいいじゃないですか」「うわっ、こんなに濡らしてビチョビチョじゃない……」(※エロシーンではありません)等々。
- なんだかんだ言って汀ルートはけっこうラブかったこと
- ミギーさんの飄々としたキャラがよかったこともあって、あの小粋なオチが効いていたと思います。
- OP、ED曲と挿入歌
- どれも新味があって素敵でした。特に挿入歌「誘水」が好きです。
- 日本語のリズムをうまく生かした台詞
- 特にコハクの台詞がよかったですね。「久しいな、瓏琉! 瓏琉! 馬瓏琉ーっ!!」とか、「笑わせるな剣鬼、調子に乗るな剣鬼、おぬしごときに神が切れるものか!」とか、反復法や対句法の醸し出すリズム感と迫力が、すげえよかった。
- ミニゲーム
- エフェクトで出てくるあのキャラの横顔に惚れ惚れ。ゲーム自体も楽しめました。
……というわけで、決してよかった点が皆無だというわけではないんですよ、このゲーム。だからこそ、シナリオやシステムの不備が心の底から残念に思われます。そこにもっと力を入れていれば大化けしていたかも、と思うと、羽化に失敗して飛べずじまいになってしまった美しい蝶を見るような、とても悲しい気持ちになりますね。
まとめ
ワンセンテンスでこの作品を形容するならば、「羽化失敗して飛べずに終わった蝶々」。もっとすごいゲームに大化けして羽ばたく可能性もあったのに、結局そうなれなかった不遇な作品だと思います。前作の出来具合が神がかっていただけに、とてもとても残念です。