石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

PCゲーム『アオイシロ for Windows』(サクセス)レビュー

アオイシロ

アオイシロ

結論:どちらかひとつだけ買うなら、PS2版よりこっち

PS2百合ゲー『アオイシロ』のPC版です。「ビジュアルの進化」「シナリオの進化」を売りにした作品ですが、ビジュアルこそ確かに段違いの美しさを誇るものの、シナリオの大筋はまったく変わっていません。つまり、主人公は相変わらず宇宙人だし、ご都合主義も全開、理不尽な分岐や芸のないバッドエンドもそのままです。カップリングの追加もなく、「新規特別シナリオ」も、単なるファンサービス用のSSの域を出るものではありません。ただし、コンシューマ版で不評だったスキップを夢のように使いやすくし、セーブファイルの数を増やし、テキストの矛盾点をある程度解消するなど、良くなっている面もあります。どちらかひとつだけ買うなら、PC版にした方が無難でしょう。

1. 良くなった点について

1-1. グラフィックの美しさ

PS2版と並べてプレイすればその質の差は一目瞭然。線の美しさや発色の鮮やかさなど、一般的なPCゲームと比べてさえ勝ってるんじゃないでしょうか。

1-2. スキップの使いやすさ

無印の「既読のはずのシークエンスが、別ルートだと未読扱いにされる」「動作がもっさりでなかなか進まない」という最大の欠点がきれいに解消されています。これは大快挙。

1-3. セーブファイルの数

コンシューマ版の2倍の100個となっています。分岐を細かく探索するにはこれぐらいは必要なので、とてもありがたかったです。

1-4. 文章の矛盾点をいくつか改善

コハクの謎の健忘症(カヤルート『◇双鬼相打つ』)や瞬間移動(グランドルート『◇カヤとコハク』→『◇運命の分岐点』)が修正されています。よかったよかった。また、梢子が魍魎の危険性を無視して浜辺で遊んでばかりいる点についても、ルートによってはPS2版よりはまだまともな説明がされていました。以下、比較。上がWin版で下がPS2版です。

夜の海は危険だけれど、昼間に浜辺で遊ぶだけなら、そう神経質になる必要はないだろう。
花火は夜の浜辺ですることになるだろうけれど、あれも集団で火を使っているところは避けるのではないだろうか。
普通の動物同様に考えるのはどうかとも思うけれど、怪異の目撃談が昼よりも夜、集団よりも個人というケースが多いのはそういう事ではないか。
それに、踏み石が顔を見せる引き潮以外の時間ならば、汀に一緒にいてもらうこともできる。
肝試しを止めさせる以上、これぐらいの譲歩は必要だろうし――

(サクセス. (2008).『アオイシロ for Windows』[PCゲーム]. カヤルート三日目『◇遊び倒すための予定』より.)

夜の海は危険だけれど、昼間に浜辺で遊ぶぶんには、それほど神経質になる必要はないだろう。
それに花火に関しても、引き潮以外の時間に汀に一緒にいてもらえば――
他力本願になってしまうのは気に入らないけど、こちらも背に腹は代えられない。
それなら気分を入れ替えて、楽しめるだけ楽しむべきだろう。

(サクセス. (2008).『アオイシロ』[PS2ゲーム]. カヤルート三日目『◇遊び倒すための予定』より.)

要するに、無印では「昼間なら大丈夫」「汀がいるから大丈夫」というふたつの理由だけを根拠にのこのこ(たかが遊びに『背に腹は代えられない』っていったい何?)浜辺に行くわけですが、Win版ではそこに新たに「怪異は集団と火を避けるだろう」「肝試しを止めさせる代わりにやむなく浜辺へ」という理由がつけ加えられているわけですね。そうは言っても別ルートではやっぱりおかしな点が残っていたりもするんですが(これについては後述)、シナリオの説得力を少しでも高めようとするこうした努力はすばらしいと思います。

2. 改善されなかった点について

2-1. 小山内梢子が宇宙人

相変わらず、小山内梢子の思考回路が理解できません。ここまで感情面のリアリティに欠ける主人公というのも珍しいんじゃないでしょうか。以下、具体例を3つ挙げてみます。

2-1-a. 大切な人の身の安全より、自分の水着&海水浴が大事な梢子さん***

以下はコハクルート3日目、沙羅の森での梢子と百子の会話場面(『◇海へ』)です。なお、強調は引用者によります。

百子「というわけで、海に行きましょう!」
とりあえず前置きを割愛して、百子は海に行こうと言った。
全員揃って海に行きたいということで、昨日保美は水着を買い、そして有志一同のカンパで私の水着も買ってこられたんだっけ。
あの、何だかすごい水着を。
綾代のこと、ナミのこと、夏姉さんのこと――
先ほどまで思い悩んでいた問題が、その一閃で頭の片隅においやられた。

これで海水浴行っちゃうんだぜ。綾代は幽霊に襲われて弱っているし、ナミは口がきけず記憶も戻らず、大事な夏姉さんは剣に憑かれて鬼と化してるのに、全部頭の片隅へゴーだぜ。君の脳内の優先順位はどうなっておるのだ小山内梢子。せっかくカヤルートでもっともらしい理由をつけても、別ルートでこれではだいなしです。

2-1-b. とんでもない状況下ですーすー寝ている梢子さん

夜間、ナミが魍魎にさらわれたのに、誰にもそれを知らせずに寺に帰ってすーすー寝てるんですよこの人(コハクルート五日目『◇そして次に消えたのは』)。心の底から理解できません。和尚や花子先生に言うなり、汀の携帯に電話するなりってことは思いつかないんですか。

2-1-c. 心のつながりが希薄な梢子さん

「主人公と攻略対象との心のつながりが希薄」という欠点が放置されたままです。特に、保美ルート三日目「◇約束」の告白シークエンスが最悪(以下、強調は引用者)。

梢子「私が保美のこと、頑張ってる保美のこと、放っておけないから……だと思う」
私は一生懸命頑張っている子は好きなのだ。
誰と特定するでもなく、頑張っている子はみな好きなのだけれど――
梢子「多分、そういう保美のことが好きで、好きだから放っておけないんだと思う」

ここでわざわざ保美への「好き」がスペシャルな気持ちでないことを強調してどうする。別に恋愛感情である必要はないけど(先輩としての愛でも友情でもいいと思う)、せめて「この人が特別に好き」というところにウエイトを置かなきゃ百合ゲーにならんでしょうが。さらにこの後、

保美「わたし、梢子先輩のこと好きです
だからわたしももらうだけじゃなくて、先輩にいろいろもらってほしいです
先輩がわたしを支えてくれるなら、わたしもわたしのできる範囲で、一番近くで支えられたらって思います
わたしもわたしができる範囲で、助けたり護ったりしたいです……」

保美にここまで渾身の大告白をさせておいて、その上「ずっと近くにいる」と指切りまでかわした後で、

梢子「……でも、なんで綾代なわけ? もしかして保美は、綾代のこと――」

駄目だこの女。保美の大告白をひとつも聞いてないわ。このように梢子の心理面の描写は相変わらず杜撰で、そのために百合としてのラブ度も呆れるほど低いものになってしまっていると思います。

2-2. その他の改善されなかった点

このあたりもPS2版とまったく同じです。

  • とってもご都合主義
    • 主人公たちがうんちくを垂れている間なぜか敵は攻撃してこないとか、危険な岩場を流されてもなぜか怪我ひとつしないとか。
  • 理不尽な分岐&無意味な選択肢
    • ユーザの時間を無駄に食いつぶしまくるステキ仕様。
  • 投げやりなバッドエンド
    • 相変わらずの唐突きわまりない溺死エンドと首チョンパエンド乱立。
    • 賭けてもいいけど、『アオイシロ』をむやみやたらに高く評価してる人って、攻略サイト頼りで小器用にバッドエンド回避しながらクリアした人なんじゃないでしょうか。真正面から自力でプレイして、睡眠時間を削りまくりつつあの脈絡のない「首チョンパ首チョンパ首チョンパ溺死溺死溺死津波発狂溺死首チョンパ首チョンパ」というバッドエンド地獄に投げ込まれ、それでも傑作とベタ褒めできる人がいたとしたらよほどの聖人君子。
  • 誤記・誤読
    • 汀ルート「◇黒き剣の呪い」での、「剣鬼の放つ瘴気に押され、汀が後ろに退いたように見えた汀が――」とか。あと、和風を売りにしたゲームなのに、八百年も生きてるはずのキャラクタが「今上の帝」を「こんじょうのみかど」と読んだり、「来よ」を「きよ」と読んだりしてしまうところも直ってません。

3. 新たに追加されたものについて

  • 「新規特別シナリオ」として「友あり遠方にて出逢う」(花子先生とサクヤさんの話)、「<<剣>>の巻」(カヤの話)の2本が追加されています。しかしこれらは単なる「お話の断片」。数分で読める上、分岐もゼロで、あくまでファンサービス用のSSといった位置づけだと思います。確かに台本形式で書かれてこそいますが、あれをゲームの「新シナリオ」とまで言い切るのは難しいかと。
  • 新CGの数々はたいへん美しく、Halさんファンなら必見。とは言え、コンシューマ版より高い露出度等は、正直それほどのセールスポイントにはならない感じ。お風呂の湯気を薄くすることより、ストーリー全体の整合性やキャラクタの魅力を高めることに力を注いでほしかったです。
  • 「アオイシロ」おまけプログラムWKSスクリプトというのがついています。ヘルプによると、「二次創作とかしてみたくなった人のための簡易スクリプト実行状況」とのことで、アオイシロのイメージを著しく損ねるものでなければ、作ったものを動画で公開することもOKということらしいです。これは実に太っ腹なおまけで、すばらしいと思います。

まとめ

細かい補正はあれど、大筋はコンシューマ版とほとんど変わらないゲーム。ただし操作性の向上や、より美しくなったCG、二次創作歓迎のスクリプトなどを考慮に入れると、「どうせ買うならWindows版の方がいい」というのが結論です。主人公の奇怪な思考回路・理不尽な分岐・まるで嫌がらせのような粗製乱造のバッドエンド等が改善されていないところから考えると、攻略サイトを頼って無難にトゥルーエンドだけ目指した方が、まだ良い印象を持ってプレイできる作品だと思います。