ウィッチマズルカ (1).魔法、使えますか? (角川スニーカー文庫)
- 作者: 水口敬文,すまき俊吾
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/07/01
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ウィッチマズルカ (2). つながる思い (角川スニーカー文庫)
- 作者: 水口敬文,すまき俊悟
- 出版社/メーカー: 角川書店
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ところどころホモフォビックな姉妹微百合ラノベ
これは評価が難しいなー……。現代に生きる魔女たちのバトル物としてはとても面白いんですよ。壮麗かつスリリングな魔法戦の描写はすばらしいし、主人公の成長物語としても楽しいし、ばーさま世代をうまく使った壮大な設定も面白いと思うんです。でも、姉妹愛を強く打ち出した作品で、かつ何かというと姉が妹に抱きつくなんていう(微)百合チックな場面が多いにもかかわらず、要所要所にホモフォビアが露呈しているところが大きなマイナスポイント。わざわざ(微)百合っぽい展開にしては、いちいちキャラ達にホモセクシュアル・パニックを起こさせて異性愛性をアピールするというパターンが鬱陶しかったです。
ホモセクシュアル・パニックの例その1:「そんな趣味」を否定することでホモソーシャルな友情を形成
以下は、主人公「未玖」がクラスメイトの「ひなた」と仲良くなる場面(2巻p. 98)の描写です。なお、この先、引用文内の強調はすべて引用者によります。
未玖はすっと顔を赤らめて、
「……なんだか今の言い方、愛の告白みたいだった」
言われて、本当にそうだと気づき、ひなたも顔を真っ赤にする。
「ちっ、違いますよ!? わたしにそんな趣味はありませんからね!?」
「私だってないよ!? お姉ちゃんがベタベタしてくるせいで時々勘違いされちゃうけど!」
二人揃って必死に弁明し合う。
「……くすっ」
「……ふふっ」
それから、二人で笑い合い、仲良くしようねと握手をした。
要するにこの2人は同性愛を「趣味」扱いし、かつ、「同性愛=自分はそうではないと必死に弁明しなければならないスティグマ」とする価値観を分かち合うことで友情を深めているわけです。どう見ても同性愛嫌悪をベースとしたホモソーシャリティですよね、これ。ヘテロ同士で仲良くしたければ勝手にやってればいいのに、どうしてそこでいちいち女性同性愛を貶める必要があるのでしょう。
ホモセクシュアル・パニックの例その2:「百合な人は汚れた危険人物」というほのめかし
以下は、未玖の姉「夏咲(かさき)」が、ひなたとの付き合いについて未玖に口を出すシークエンス(2巻p. 243 - 244)。あらかじめ補足説明しておくと、この世界の魔女は、魔法を使う際に「律花」と呼ばれる花を出現させることになっており、ひなたの律花は百合の花だという設定です。ちなみに花の種類は自分では選べません。
「え? あ!? いえ、お二人がなんだかアヤシイ方向にいったらどうしようかなとか全然思っていないですよ? そうなった場合はやっぱりこっそりと見守るべきですよねとかそんなことちっとも考えていませんでしたから!」
アハハとわざとらしい笑い方をしながらひなたはやってきた。(引用者中略)
「未玖、あの子との付き合い方は気を付けた方がいいわよ」
夏咲がひなたから遠ざけるように未玖の肩を引き寄せた。
「え? なんで?」
「あの子の律花が何か考えればすぐ分かるでしょ」
「?」
「律花の種類と嗜好は関係ありません! わたし、それを言われるのすごく嫌なんですから!」
ひなたは顔を真赤にして否定した。
ひなたの律花? それがどうだっていうの?
「ねえお姉ちゃん、どういう意味?」
「未玖、意味分からないの?」
「うん」
「そう……。未玖、お願だからそのまま純粋でいて。この子みたいに汚れないで」
夏咲はよしよしと頭を撫でた。
何すか、この、
- 百合な人(同性愛者)は危険人物
- 百合な人(同性愛者)だと言われるのはすごく嫌なこと
- 百合という語が同性愛を指すと知らないのは「純粋」、知っていてなおかつ他人の同性愛関係を想像する人は「汚れ」ている
という価値観の固め打ち。ぎゃふん。そこまで同性愛=悪しきことだというのなら、女同士でやたらとベタベタする展開自体書くなよー。人口の5~10パーセントは同性愛者なんだから、これを読む中高生の中にだって女性同性愛者はきっといるだろうに、平気で同性愛を「ヘテロ同士の仲良しごっこを盛り上げるための踏み台」として泥足で踏んづけまくるこの書き方はどうよ。
こういうことを書くと
「だってフツー同性愛なんてドン引きするもんだから仕方ないだろ」と言う人というのが必ず出てくると思います。でも、もしこれがこういう会話だったらどうです?
(寿司食ってる外国人ふたりの会話)
A「スシはおいしいねー」
B「特にトロがね」
A「……なんだか今の言い方、日本人みたいだった」
B「ちっ、違いますよ!? わたしはそんな国の人間じゃありませんからね!?」
A「私だって違うよ!? スシが好きなせいで時々勘違いされちゃうけど」
そして微笑み合い、仲良くしようねと握手する二人。
なんだこの糞レイシズムはと思いませんか。よその文化圏の、自分にとって都合がいいところだけ横取りして、そのくせその文化を下に見て「自分はそんなものに属していない」とアピールしまくるなんて最低です。よその文化を見下すことで共感し合うキャラクタたちも最低です。それと同じことをやってる小説なんですよ、『ウィッチマズルカ』は。
まとめ
冒頭にも書きましたが、魔法バトルが多用される成長物語としては単純に面白いんですよ。派手な戦闘描写も、巧みに仕掛けられた謎も、ほんとうにすばらしいです。でも、いちいち同性愛を貶めてはホモソーシャルな連帯を固めて大喜びというパターンには正直言ってうんざり。3巻が出たとしても、読むか読まないか迷うところ。