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やわらかくあたたかい物語。2巻にかすかな百合の香り
傍若無人な漫画家の母「喜和子」に振り回される女子高生「日和子」の物語。1巻は喜和子と日和子の関係を描くホームドラマ、そして2巻は日和子と不思議な美少女「こるり」との出逢いを描く、ほんのり百合テイストな友情物語です。百合漫画として読むならもちろん2巻に注目ですが、1〜2巻全体を貫くあったかさと切なさ、飄々としたおかしみ、そしてやわらかく優しい絵柄などを全部味わい尽くさないのはもったいなさすぎ。ぜひ1巻から通して読まれることをおすすめします。
かすかな百合話(2巻第3〜5話)について
この台詞が特にすごい
このお話の肝は、なんと言ってもこるりがさらりと語るこの台詞(p. 107)。
さぼったのはうれしかったからよ
日和子ちゃんは 葉平くんとつきあってるって思ってたから
「葉平くん」は、日和子のおさななじみ。お話の序盤で、葉平に彼女(※日和子ではありません)がいるのを知って、こるりは突発的に学校をさぼってしまいます。なりゆきで一緒に休んだ日和子はずっと、こるりは葉平が好きで、だからこそショックを受けてさぼったのだと思いこんでいたのですが、実はそれはまったく逆だったんでした。こるりが気になっていたのは、葉平ではなく日和子だったんです。
まるで漱石の「月が綺麗ですね」のごとく抑制のきいた言い方でありながら、「気になっていたのはあなただ」ということを端的に伝えてみせるこの台詞が心憎くて、もう。ちなみに、こるりの気持ちが恋愛なのか友情なのかは最後まではっきりしません。100パーセント友情の可能性もあります。でも、この台詞の後では、ズル休みの日のふたりの行動が、まるで違った意味を持ってキラキラと輝いてくるんですよ。一緒にクレープを食べるのも、補導員にみつかりそうになって逃げるのも、実はこるりにとっては「好きな女のコとの大切なデート」の一環だったわけ。心情の吐露によって世界の解釈がガラリと変わっていくこの物語構造は非常にラブストーリー的で、それだけでこのお話はじゅうぶんに百合だ、とあたしは思いました。
「小鳥」というメタファーあるいは伏線を生かした物語構成がすごい
お話の冒頭で、日和子はこるりを小鳥になぞらえます。ミステリアスなショートカット美少女のこるりにそのイメージはとても合うし、また、「こるり」という名前そのものが鳥のコルリを連想させるところも楽しいのですが、実はこのお話には、小鳥のように美しい羽根を持つ人がもうひとりいるんですよ。で、その伏線が、山場で鮮やかに生きてくるんです。このように「小鳥」をメタファーあるいは伏線としてうまく使いこなした緻密な物語構成が、ほんとうにすばらしかったです。
その他のお話について
1巻で描かれるのは、ひとことで言うと「家族のすれ違いと再生の物語」。というとなんか気まじめな暗いお話になりそうですが、ぜんぜんそんなんじゃないんです。なにしろ日和子の母の喜和子さんときたら、「マイペースもここまできたらひとつの芸風」と思わせるほどに傍若無人なBLまんが家。飄々としたおかしみがストーリー全体に流れており、コミカルだけどぐっとくる物語となっています。
絵柄について
ふんわりとやわらかなタッチと、人物のポーズの流麗さがとてもいいです。『ホームメイド』全体に通底する可愛らしくていとおしい雰囲気は、この優しい絵柄によるところも大きいと思います。
まとめ
ほんのりと百合な2巻も、あたたかくしみじみとした家族ものの1巻もとてもよかったです。惚れた腫れたのわかりやすい恋愛チックな百合作品をお探しの方には向きませんが、「かすかな百合テイストのあるハートウォーミング・ストーリー」がお好きな方にはめちゃくちゃおすすめ。