- 作者: 佐竹沙織
- 出版社/メーカー: 文芸社
- 発売日: 2009/02/01
- メディア: 単行本
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女のコ同士の恋をうたう短歌集
女のコ同士の恋をうたう97首の短歌が詰まった歌集。タイトルや表紙から、「異性愛者向けのレズポルノ的なあざとい本かも」と一抹の不安を感じていたのですが、それはまったくの杞憂でした。蓋を開けてみれば、中身は甘酸っぱくみずみずしいナイスな恋歌ばかりで、最後までとても楽しく読むことができました。プラトニック恋愛ばかりでなく欲望込みの想いもうたっているところや、ありがちな「上級生と下級生」パターンにばかり拘泥しないところがとてもよかったです。なんちゃって臭がまるでないところも素晴らしかった。
作者について
冒頭のページ(p. 2)にいきなり
という文章が掲げられています。高等部一年佐倉沙織です
短歌と女の子がすきです!
これが作者による巧みな韜晦なのか、本当にこの佐竹沙織なる高校生が存在するのかは読者にはわかりません。わからないながらも、この設定をも含めて全部楽しんでしまうというのがこの本に対する正しい態度なのではと思いました。言うならばこの著者紹介は、スプラッシュマウンテンにおけるウサギどんのお話のようなもの。それを前提としてこそ味わえる面白さがある、ということです。
甘酸っぱさとみずみずしさ
いくつか例を挙げてみます。
「彼氏とかいるんですか?」と大好きな女の子なら目の前にいる
校則に違反して君がはいてきたハイソックスを目で追っている
友達と思っていた子の唇の可愛らしさにうろたえている
「あるある」とうなずいてしまう人も多いのではないでしょうか。こんな感じのヴィヴィッドで可愛らしい歌が目白押しです。
欲望込みの恋情もたっぷり
「女のコ同士は清らかなプラトニック恋愛でなくちゃ!」みたいな巷の妄言を吹き飛ばす上品なエロスがとてもいいです。たとえば、このあたり。
恥ずかしいことを想って
恥ずかしいことをしているきっと君だって
挨拶をしたこともない後輩の髪に触れたい口づけしたい
抱き合っている私たちの衣ずれの音だけがした午後の教室
さまざまなカップルが登場
こんな感じのわりとスタンダードな「上級生−下級生」パターンももちろん登場するのですが、決してそれだけに終わらないところがユニーク。たとえば、妹のような存在にしたいと上級生に髪いじられる
これなんかは同級生同士ですし、級友の制服姿愛しくて携帯の画面繰り返し見る
数学の女教師と付き合っていると噂の合唱部長
学年で一番の優等生の恋人は女子大生と聞く
このあたりは女子高生ともっと年上の相手との恋模様ですよね。このように、同性同士の恋をありがちな「お姉様(上級生)と妹(下級生)」系の枠だけに押し込めず、さまざまなカップル像をうたっていくところがとても面白かったです。
なんちゃって臭皆無
上の方にも書きましたが、これらの歌を書いた「佐倉沙織」なる高校1年生が実在しているのかどうかは謎です。ですが、この歌集におさめられた作品には、百合もので賛美されがちな「一過性の疑似恋愛」の香りがしないんですね。むしろ、「根っから女のコが好きで、一過性どころかずっと女のコ一筋」という立場から書かれたものが多いように感じます。たとえば、このへん。
ローティーン向けファッション誌
お気に入りのモデル目当てにまだ買っている
少しだけ昔付き合っていた君の膝の指触りを覚えている
中三のときの初キスの相手の子上級生と付き合い始める
ちなみに自己陶酔的な「禁断」「背徳」路線の歌もほとんどなく、安心して読めました。
まとめ
タイトルと表紙はアレですが、中身は可愛らしくも鮮烈な恋の歌ばかりで、とてもよかったです。あえかな官能の香りも楽しいし、レズビアニズムをありがちな「お姉様と妹」的文脈にばかり押し込めないところもナイス。
最後に一首、特に気に入った歌を挙げておきます。
好きな果物は何かと訊ねられ なんとなく君のことを考える